私に託された家(나로 만든 집)

原題
나로 만든 집
著者
パク・ヨンラン
出版日
2021年12月6日
発行元
ウリハッキョ
ISBN
9791167550255
ページ数
224
定価
13,000ウォン
分野
YA

●本書の概略

これまで、青少年の労働やマイノリティの疎外感などを題材にしてきた著者パク・ヨンランの長編小説。
2歳のとき事故で両親を亡くし、祖父母の家で育てられた主人公の「私」(キョンジュ)。祖父母の死去により、16歳にしてひとりぼっちになった。遺言に従い、祖父母の家を相続することになったキョンジュは、思い出の詰まった二階建ての一軒家を守ることを心に誓う。ところが、家を売って分け前を得ようと、叔父をはじめとした親戚の大人たちが下心を抱いて家にやって来る。相手が子どもだと思って、身勝手な行動をとる大人たち。キョンジュは、大人たちの説得や懐柔、脅迫に屈することなく、「家は売りません」ときっぱり言い続ける。地下倉庫に閉じ込められるという嫌がらせも受けたが、結局大人たちに勝ち、家を売られずに済んだ。
高校生にして家主になった少女が体験する危機、苦難、その中で成長していく姿が描かれた作品である。

●目次

1章
2章
3章
4章
作者のことば

●日本でのアピールポイント

現代の日本で、主人公キョンジュと同じような状況におかれることはまずないであろう。しかし、大人と子どもの対立は『ぼくらの七日間戦争』に代表されるように昔からのテーマであり、青少年の読者はキョンジュと同じ目線で大人たちと戦いながら、ドキドキハラハラする展開を楽しめるだろう。大人の読者は、なかなか折れないキョンジュに対してなぜそこまで信念を曲げないのか理解できなかったり、あきらめればいいのにと敗北を提案したくなったり、あるいは自分が同じ年頃のときにそんな強さがあったかに思いを馳せたりするかもしれない。それぞれの立場で考えさせられる作品だ。
また、亡き祖父母の残した「秩序」が息づく家の中のようす、その秩序を受け継ぎ守っていこうとするキョンジュの姿、家を見つめ続けてきた庭のライラックなど、家の長い歴史を感じさせる描写が随所にある。今回キョンジュが巻き込まれたいざこざも、この家の歴史の一部となって未来へと繋がっていくのだろう。明るいストーリーではないが、読後感はほんのりあたたかく爽やかだ。

(作成:山口 さやか)

パク・ヨンラン
慶尚北道英陽生まれ。中央大学校芸術大学院文芸創作専門科課程を修了したのち、英文学を学んだ。2011年『私の孤独なドリアンの木』でデビュー。韓国図書館協会優秀文学図書に選定された。韓国文化芸術委員会創作基金の支援対象となった長編小説『ソウル駅』のほか、小説集『アンのかばん』、長編小説『ゲストハウスQ』『コンビニ行く気分』、童話『屋上庭園の秘密』など、青少年や児童向けの作品を多く展開し、弱い立場に置かれている小さな存在にあたたかな視線を送る作家である。