星編みに関して(별뜨기에 관하여)

原題
별뜨기에 관하여
著者
イ・ヨンド
出版日
2020年10月22日
発行元
ファングムカジ
ISBN
9791158887254(1158887256)
ページ数
288
定価
13,800ウォン
分野
小説

●本書の概略

韓国を代表するファンタジー作家、イ・ヨンドが2000年から2012年の間に発表した小説を集めた短編集。宇宙内で地球人が唯一文化交流を許されたウィタン星人との間に起こる物語を綴った“ウィタン星人”シリーズ4編を中心に、SFでありながらも様々なジャンルを盛り込んだ奇想天外なイ・ヨンドワールドが展開する。

『カイワパンドムの翻訳に関して』 宇宙内でパートナーとして指定されている地球人とウィタン星人はお互いの星の童話を翻訳して文化交流を図っていた。地球人の私は「シンデレラ」と交換に送られてきた「カイワパンドム」というウィタン星人の童話を韓国語に翻訳することになるが、銀河標準語辞書で調べても「カイワパンドム」が何を意味するのか見当もつかなかった。そんな中、翻訳者たちを亡き者にしようとする地球第一主義者から襲撃される事件が起こるが、警護を担当する北朝鮮の軍人・パク大尉の働きで九死に一生を得る。襲撃から10日後、入院中の私は「カイワパンドム」翻訳第1稿をパク大尉に読ませ、ウィタンには性別が男女の2種類ではなく3種類存在し、「カイワパンドム」はその性の組み合わせのひとつを意味していたのだが、地方でのみ使われる言葉だったので標準語辞書で調べてもわからなかったこと、そして絶妙に意訳したタイトルのことを説明する。南北統一後も北朝鮮の言葉を使い続けるパク大尉と、兄と話すときには慶尚道(キョンサンド)訛りが出てしまう私は、言葉を遺して伝えることが文化を伝えることなのだと改めて感じていた。

『救世主になったロボットについて』 宇宙船で働くロボットがインターネットでキリストのことを知り、自分も全てのロボットのために代理贖罪したいと船長に申し出る。

『星編みに関して』 地球の占星学者が、ウィタン星人を神と崇めているリボルピト星人の信仰を成立させるためのホロスコープの配置を探し、ウィタン星人のジェルビーとともに宇宙を移動する任務にあたっていた。だが、計算間違いから思い描いていた星座の位置にならないことが発覚する。そこに突然、水瓶座生まれの子どもを産むために宇宙へ飛んだまま6年間行方不明になっていたカツムラ夫妻から連絡が入り……。

『復讐(複数)の母に関して』 死んだ人間でも“洗濯室”に入れれば元通りの生きた人間として再生できるようになった未来。地球に戻る宇宙船内で、我が子を殺した犯人を殺しては再生することを繰り返していた船長だったが、27回目の再生はこれまでと少し違っていて……。

『瞬間移動の意味に関して』 全人類が待ち望む瞬間移動装置の開発に成功したスインを連れ戻すことを韓国政府から依頼されたヨンウは、スインの妹とともに南国に向かう。

『私を見る雪』 滅亡の危機に瀕した人類を救うために異人類たちが力を合わせ、雪の中を自在に動き回る怪物と戦いながら苛酷な旅を続ける。

『美しい伝統』 宇宙人に侵略された地球。宇宙人が地球で唯一気に入ったものは韓国の祭祀(チェサ)だった!

『戦士の末裔』 決死の覚悟で敵と戦う熾烈な戦闘の後、ふと兄の頭をよぎった思いとは?

『シンピテキ国物語』 シンピテキ国の首都シンギハン市でいちばんの大富豪であるキミョーナ・トーラス。ある日、「トーラス氏は黄金獅子月の10日正午に寿命を迎える」と預言する魔法使いが現れ……。

『春が来た』 いつものように親友ペン・ジュヒョクと焼酎を飲んでいると、彼は突然「春は好き?」と聞いてきた。そして、インターネットで注文した春が今日届いたと、内ポケットから桃の種のようなものが入った小さな箱を取りだすのだった。

●日本でのアピールポイント

『ドラゴンラージャ』『フューチャーウォーカー』シリーズで日本でもファンの多いイ・ヨンドのSF短編集。彼本来の持ち味である大河小説的な長編シリーズものとはひと味違うシニカルでウィットに富んだショートショートから、ハリウッドでそのまま映画化できそうなほど躍動感あふれる描写が見事なファンタジー・アクション、背筋も凍るホラー、思わず微笑んでしまうラブ・ストーリーまで様々なテイストの短編が満載。どの作品にも韓国社会および現代社会に対する風刺が効いており10年も前に書かれたとは思えない新鮮さが魅力だ。星新一のショートショートが好きな人にぜひオススメしたい一冊。

作成:大森美紀

イ・ヨンド
1972年生まれ。慶南(キョンナム)大学国語国文学科卒。1998年夏にパソコン通信の掲示板上で連載していた小説『ドラゴンラージャ』が書籍化され100万部を突破するセールスを記録、韓国ファンタジー・ブームの先駆者となる。『ドラゴンラージャ』は日本、中国、台湾などでも出版されベストセラーとなり、韓国ではラジオドラマ化、ゲーム化、コミック化されただけでなく高校の教科書にも収録されるほど認知度の高いシリーズとなった。その後、『フューチャーウォーカー』『ポラリス・ラプソディ』を発表、2003年のファンタジー大河小説『涙を飲む鳥』でイ・ヨンド作家ブームを再び巻き起こし、2005年に続編『血を飲む鳥』を発表した。2009年には『ドラゴンラージャ』『フューチャーウォーカー』の流れをくむ『影の跡』を発表、文化観光部優秀教養図書に選ばれている。2018年には中短編集『オーバー・ザ・ホライズン』と後続の長編小説である『オーバー・ザ・チョイス』、 2019年には中短編小説『マート物語』を発表するなど、着実に執筆活動を行っている。