●本書の概略
詩人によって描かれた生活のなかの色彩や光
現代の韓国を代表する詩人、ムン・テジュンによる10年ぶりのエッセイ。
「考えが絶え間なく浮かんでくる。樹々に若葉が芽吹くように。海に波が立つように」(「著者の言葉」より)
私たちは通勤電車の窓から風にさざめく新緑の美しさを目にしても、開いたドアから吹き込む風に秋の香りを感じても、それをことばにする機会は多くない。時間に追われるかのように次々と消えていく考えや、心の中を一瞬で吹き抜けていく風をムン・テジュンは詩人ならではの目線でとらえ、詩を織り交ぜながら記していく。さらに詩人のことばは人生を構成する様々な風景に触れることで、より良い明日をいかに生きるかを綴る。
「私たちは、愛することは苦痛を伴うからと、愛することをあきらめたりしない。愛をあきらめない限り、私たちの心は山のように大きくなることを知っているから」(p.189「心は山のように大きく」から)
本書のタイトルは詩人キム・ヨンテク(金龍澤)の「樹は雪が降れば、雪を受けとめる。風が吹けば、風が吹く樹になる。鳥が止まれば、鳥を受け入れ、新しい世界を創り出す」ということばからきており、日々の出来事をあるがままに受けとめたうえで、世界を新しくとらえていく生き方を表している。
エッセイは全111篇。どこからでも読み始めることができる。その時々で心惹かれるタイトルを開けば、必要としていた栄養のように心に染みわたっていくことだろう。
空山多月色: 森閑たる山は 月明かりに満ち
孤往極清遊: 孤(ひと)り逍遥する夜は澄み渡る
情緒為誰遠: 誰かを思う心 遠く届かず
夜闌杳不収: 夜闌(たけなわ)にして 深い闇果てしなし
(p.21 日帝時代の詩人、僧侶、独立運動家 韓龍雲の詩より)
●目次
1部:花はそっと身支度し 優雅さをまとう
2部:微笑んで 見つめ合うだけ
3部:また新たな明日が訪れる
4部:ふと君の顔が浮かぶ
5部:僕の心によりそい そっと立つ
●日本でのアピールポイント
韓国では詩が広く愛され、詩人は尊敬されている。本書では、ムン・テジュン自身の作品をはじめ、日帝時代の詩人ハン・ヨンウン(韓龍雲)、素月詩文学賞を受賞した詩人キム・ヨンテク(金龍澤)など、著名な詩人の作品が散りばめられている。日本でも、詩人である若松英輔氏のエッセイ『言葉の羅針盤』、『言葉の贈り物』(亜紀書房)などは人気が高い。韓国文学に関心のある読者のみならず、ことばや詩に関心のある読者に広く受け入れられるだろう。現在日本で紹介されている韓国文学は小説が中心だが、本書は韓国の詩に出会う入門書としても良書であり、日本での出版が期待される。
作成:バーチ美和