「近所の頭の弱い子」と言わないで(사양합니다,동네 바보 형이라는 말)

原題
사양합니다,동네 바보 형이라는 말
著者
リュ・スンヨン
出版日
2018年3月30日
発行元
プルンスプ
ISBN
9791156757382
ページ数
306ページ
定価
15,000 ウォン
分野
人文

●本書の概略

出産前まで自身も障がい者に対する偏見を持っていた著者が、障がい児を育てる中で感じた怒りや苦悩、不安、そして喜びを忌憚なく語る、ママ友同士のおしゃべりや育児日記をまとめたような一冊。

完治する「病気」ではなく、一生付き合っていかなくてはいけない「特徴」である長男の障がい。本書では障がい児とその家族が、家庭や治療室だけではない「社会」の中で生きていくために求められる福祉環境に関する考えや健常者への啓もう、そして精神年齢は2歳ながらも身体年齢は10歳の息子に対する親としての接し方、どうしても手がかかる息子ではなく、いつも2番手になってしまう非障がい者である彼の双子の姉への接し方、育児を巡る夫婦の在り方、「母」ではない「自分」など、障がいという点だけに囚われない、家族観や人生観が語られている。

●目次

1章:誰もが初めてを経験する/2章:自分を守って生きるということ/3章:品位ある社会になるために/4章:独立した人間として生きるということ

●日本でのアピールポイント

日本では2016年に、19人もの死者を出した戦後最悪の大量殺人事件、相模原障害者施設殺傷事件が起きた。この事件は、犯行の残忍さもさることながら、加害者の「障がい者なんていなくなってしまえ」「障がいは家族や周囲も不幸にする」という身勝手な主張、そしてその主張に少なからず同調者が現れたという点でも、日本社会に大きな衝撃を与えた。

確かに本書にも、自身も出産前までは障がい者への偏見を持っていた著者が経験した、自殺まで考えるほどの絶望や怒り、悲しみや現行の福祉や環境への問題提起など、障がい者とその家族が抱える暗い側面に関する記述も多い。だがそれ以上に、「苦労すること=不幸」ではなく、普通の育児より10倍大変でも2倍の幸せがあるという、障がい者を育てる家族にしか分かり得ない肯定的な側面も描かれており、健常者が無知ゆえに抱く恐怖や異質感を取り除いて、彼ら家族をどう見守っていけばいいのかを教えてくれる。

育児の中で生まれた家族の苦悩と絆と喜びが包括的に描かれた本書を読んでいると、まるで著者家族が自分のご近所さんかのように立体的に感じられる筆者の表現力も心地よい。晩婚化による高齢出産の増加や、過酷な労働環境における過労による脳卒中などのリスクが高まる中で、私たちもいつ障がい者になるか分からない。博愛的な観点からだけではなく、もっと身近なものとして、障がいを考えること。そのきっかけとして、本書は最適な入門書と言えるだろう。

作成:渡辺麻土香

著者:リュ・スンヨン
社会部や政治部での記者生活を経て結婚。不妊治療の末に双子を出産するも、そのうちの1人が知的障がい者ということが発覚。それ以来、子どもの教育や将来のための制度について自身も勉強や試行錯誤を繰り返しながら、障がい者についての知識がない健常者への啓もう活動として2016年より「ザ・ファーストメディア」内で『近所の頭の弱い子』を連載する。近著に『違いはあっても同じです―障がい者と共存すべき理由』がある。