第8回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」受賞者決定!

K-BOOK振興会、株式会社クオンの共催で行われた、第8回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールには、国内外から総勢110名の応募をいただきました。ご応募いただいたみなさま、ありがとうございました。

一次審査を通過した10名の作品を審査員(星野智幸、オ・ヨンア、古川綾子)による厳正な審査を行った結果、この度次の通り、各作品の最優秀賞者が決まりましたので発表致します。(文中全て敬称略)

⇒ コンクールの詳細はコチラから

【受賞者より』

「발 없는 새」(강석경著)
最優秀賞 松渕 優子

第1回からこのコンクールに応募することを毎年課題としてきました。毎回、受賞者の方々の作品と自分の翻訳を読み比べることで自分の未熟さを痛感し、きちんと翻訳の勉強をしたいという思いが募り、昨年から韓国文学翻訳院の授業を受け始めました。そんな折に受賞のご連絡をいただき、万感の思いです。
成長する機会をくださったコンクール関係者の方々、ご指導いただいた先生方、志を共にする勉強仲間の皆さんに、心より感謝申し上げます。この賞を糧に、今後も勉強を続けていきたいと思います。

 

 

 

「내 여자친구의 남자친구」(정지돈著)
最優秀賞 ユン・ブンミ

8回目の挑戦。今回も諦めていたところへ受賞の知らせを頂き、胸がいっぱいです。
韓国文学翻訳院で一から翻訳を教わりました。ご指導くださった先生、共に学んできた仲間、そして、今まで応援してくれた家族や友人のおかげで、諦めずに続けてこられました。本当にありがとうございます。
作品を精読して、その世界観を理解し原文のトーンを生かしながら訳すことは難しく、悩み苦しむことの連続ですが、楽しくやりがいも感じます。今後も、たゆまず努力を続けていきたいと思います。
素晴らしい賞を頂き、本当にありがとうございました。

 

*なお、惜しくも受賞には至りませんでしたが、次の方々も一次選考を通過されました。
掲載を承諾いただいた方のみ、ここに掲載をさせていただきます(五十音順)。
荒牧 紀江、景山 梨彩、北澤 慶、金順慧、中井優子、中村 かおり、山口 裕理、劉順香

 

【総評】
星野智幸(作家)

誤訳も少なく日本語としてもこなれているという合格な翻訳が多く、喜ばしく悩む審査でした。『脚のない鳥』で決め手となったのは、書き込まれている文化や固有名詞を丹念に調べて、過不足のない訳注を施した松渕優子さんの努力でした。それが作品理解の深さにつながり、自然な訳文を生み出していると感じました。『ぼくの彼女の彼氏』はさらに甲乙つけ難い翻訳が並びましたが、ユン・ブンミさんの、文脈を読み込んで、辞書そのままの言葉からもう一工夫した訳語を作り出す姿勢とセンスが評価されました。
全体として気になったことは、役割語、特に女性登場人物の「てよだわ」言葉の採用が多かったことです。これは人物を類型化する言葉の使用方法で、かつては女性であることを示す記号のように使われてきました。皆さんもご承知のとおり、現代で「てよだわ」言葉で話す人は限られます。作品の時代設定、人物の造形などをよく読み込んだうえで、ふさわしい話し言葉を選んでほしいと思います。

【審査評】
オ・ヨンア(翻訳家)

今回は両作品とも総体的に基本的な条件を満たした作品が多く、接戦になりました。差別化されたポイントは、物語の話者と登場人物がどういった人物として設定され、それが一貫性を持っているかどうかでした。和訳としては完璧な文章であるにもかかわらず、人物のトーンにぶれが生じたり、人称や言葉遣いがキャラクターにフィットしていないように感じられると、可読性が下がり、作品世界に集中できなくなります。
こうした点を重要視した結果、ユン・ブンミさんの作品は、皮肉のきいたブラックユーモアあふれる世界を物語として最後まで読ませるクオリティーの高い訳文でした。また、松渕優子さんの作品は徹底した調査に基づく信頼の高さと、物語を貫く登場人物たちの生き生きとしたやりとりに魅せられました。心よりおめでとうございます。

古川綾子(翻訳家)

今回の審査で改めて「原文の伝えたい情報をキャッチし、自然な日本語で組み立てる」ことの大切さを痛感しました。
全体的に誤訳は少なかったです。その一方で、どういう意図で、この言葉が、今この場面で使われているのかという「原文の伝えたい情報」がさっぱり伝わってこず、物語として成立していないものが非常に多かったです。翻訳には、ただ言葉を置き換えるだけでなく、異なる言語間に発生するさまざまな「わからない」を「わかる」に変えていく作業が求められます。
そういった意味で松渕優子さんの「脚のない鳥」は根気強く、そして丁寧に注釈や説明をつけ、同時に小説としての面白さも考慮された満場一致の訳文でした。ユン・ブンミさんも辞書にある言葉にそのまま置き換えるのではなく、状況や登場人物が際立つ単語を一つひとつ選び抜かれた跡がうかがえる素晴らしい訳文でした。

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授賞式はK-BOOKフェスティバル2025内で開催の予定です。追って詳細はお知らせいたします。
また受賞者による邦訳2作品は、「韓国文学ショートショートシリーズ」として2025年晩秋の頃に刊行予定です。どうぞご期待ください。