●本書の概略
「お話に入る前に、どうしても言っておきたいことがある。この本の主人公は確かにシバだけど、シバがすべてなわけじゃない。愛らしい柴犬をアバターに使わせてもらっているけど、ほんとは現実の世界に生きているあなたや私の物語を描いてみたかった。もう少し具体的に言うと、シバみたいに生きるっていう誓いでもあるんだ」
(p005 プロローグより)
8年間の会社員生活から脱出し、鼻歌まじりに新たな一歩を踏み出した著者の日常を描いたイラストエッセイ。発売から半年の2019年6月時点での累計販売数は5,000部を突破している。
主人公は三角眉毛にもちっとしたほっぺが愛らしい柴犬のシバ。一見すると自由奔放だが、道に迷ったり不安になることもあるけれど一緒に歩こうよ、もっと幸せになっていいんだよと笑顔で読者に語りかける、癒し系の人気キャラだ。
シバは韓国語で「fuck」の意味を持つスラング。柴犬のシバと発音が似ていることも韓国で人気を集めている要因の一つだ。本書では「外は寒い、シバ」のように語尾に付けられていることが多いが、これには「ちっ」、「ざまあみろ」、「ふざけんなよ」といった意味も込められている。
●目次
プロローグ:私は吠えない、でもオーバーアクション! /1章:もう少し身軽に、気楽に生きることにした /2章:思い通りになるよう操った心も、心って言えるんだろうか/3章:ディスカウントなし、シバの年代記/4章:ベストな自分は今のわたし
●日本でのアピールポイント
全体の構成としては、1章が退職後の気ままなフリーター生活を満喫するシバ、2章は会社員時代のちょっと疲れていたシバ、3章はフリーターになってしまうことを何よりも恐れていた就活時代から、就職して少しずつ社会人生活に慣れていくシバ、4章はこれまでを振り返って思うこと、読者へのメッセージ、フリーターからフリーランスになった現在のシバの姿が描かれている。
最近流行りのライトエッセイ形式だが、読み進めていくと2~3ページにわたって語られる人生観、フリーランスになってはじめて経験した著作権問題との闘いなど、鋭い切り口を感じさせる内容も随所にちりばめられており、幅広い層に愛される要素を兼ね備えているのではないだろうか。日常の些細なリアルを積み重ねることで読み手の共感を引き出していく文章と、癒し系のイラストという組み合わせは、どことなく益田ミリのコミックエッセイを連想させる。
作成:古川綾子