『わたしたちのケーキのわけかた』(キム・ヒョウン/ 著、 おおたけきよみ/訳、偕成社)

「わたし一人だったら、お菓子もジュースも全部食べられるのに」と思った三姉妹の長女の私でした。兄弟姉妹のいる人なら一度は思い描く場面でしょう。ましてやきょうだい5人! しかも奇数は子どもには難しい。この物語はそんなきょうだいたちの日常がとてもユーモラスに、そしてほのぼの描かれています。そして最後に待ち受ける出来事であらたな感情が芽生える子どもたちに、ちょっと胸が熱くなってしまいます。裏表紙に書かれたこの言葉が素敵です「わかちあうほどにおおきくなる、ふしぎなわりざんのひみつ」。そんな気持ちを世の中のみんな持てるようになるとよいですね。
クリスマスの贈り物にも最適なやさしい絵本です。

翻訳を担当された、おおたけきよみさんからも推薦のメッセージを頂戴しました。

 作家のキム・ヒョウンさんとは、ソギョ洞のbookカフェで待ち合わせました。絵本のイラストそのままのまん丸童顔すっぴんで、にこにことしたかわいらしい女性でした。同席していたのは編集者、海外版権担当者、エージェントのマネージャー。みんなそろって今時ソウルの30代?女性たち。打ち合わせは完全に女子会でした。
 絵本の終盤に「わたし(=幼いころのヒョウンさんです)」の誕生日に、5人きょうだいがみんなで仲良くろうそくの火を吹き消すシーンがあります。
見開きいっぱいに「ふ~~」とデザインされたひらがなが大きく5つ描かれた、あのインパクトのあるページです。この「ふ~~」を、慣れない外国文字ながら作家自ら手描きすると即決できたのもソウル女子会のノリ、勢いだったと思います。それでこそ作家の心が伝わると私も背中を強く押しました。私がソウルに行ったのは、こういう「一押し」のためだったのです。
出版社としては段取りが増え、時間も手間もかかる作業です。作家の描き下ろしなので、どんな画が出てくるか分からない一種の賭けなのですが、日本の偕成社さんはビジネスよりもこのひと手間を大事にして、翻訳絵本にいのちを吹き込んでくれました。
絵本の翻訳は詩を書くのと同じで、言葉ひとつに体温とか体重とか体臭とかのリアリティーを載せていく職人技の世界だと思っているのですが、さて、ソウルの今がうまくのっかったでしょうか。(訳者:おおたけきよみ)

『わたしたちのケーキのわけかた』(キム・ヒョウン/ 著、 おおたけきよみ/訳、偕成社)