『ダーウィン・ヤング 悪の起源』(パク・チリ著、コン・テユ訳、幻冬舎)

「韓国出版文化賞」を受賞した、若き天才作家と呼ばれていたパク・チリの遺作作品。真実と嘘、愛と像、自由と孤独、罪と罰、善と悪、滅亡と繁栄……人間の究極の葛藤を描いた、壮大にして濃密な人間ドラマが描かれ、2018年には韓国ソウルでも、そして2023年6月、7月には日本でもミュージカル舞台化となり話題を呼びました。「本当の正義など、果たして存在するのだろうか――。」という問いに人はどう答えていくのでしょうか。

翻訳者のコン・テユさん、そして編集担当の山口奈緒子さんからも今回は推薦コメントをいただきました。

本作の舞台は、1~9地区に分けられた架空の階級社会。主人公は最上位の1地区にあるヤング家に育ち、トップ校に在籍するダーウィンですが、物語はダーウィンの父、祖父など語り手が変わり、展開されていきます。同じ出来事でも視点が違うと感じ方や考えのズレが生じ、掛け違えたボタンのようになっていく。間違って置かれたパズルのピースは、どんどん不完全なほうへと突き進みます。この小説の凄いところは、読み進めずにはいられない疾走感とそのスピードの上に積み重なっていく重厚感。そして、不完全なパズルが完成すると、タイトルにもある「起源」へと繋がります。本作のジャンルは読み手の感じ方によると思いますが、この起源も受け取り方によって少し印象が違うかもしれません。ぜひ、不完全から起源にたどり着いた時の感覚を味わってみて下さい。なお、原作者のパク・チリさんはこの作品を発表後、31歳の若さで他界されました。日本でも出版され、日本語で読んでくださる方々ができたことを喜んでくれていたらと思います。(コン・テユ)

 

初めて原稿を手にした際、内容把握のために軽く読み進める予定が、気づけばこの世界観に没入して一気読みでした。
「誰が殺したのか」という王道の謎解きは、登場人物の視点を変えて徐々に明らかにされていきます。そこから浮かびあがるのは、「誰」もにとって守りたい「何」かがあり、人も物事も一面では成り立たないこと。人間も社会も「進化」するには必ず「犠牲」を伴うといった、苦しいほどの事実が描かれています。
また、この作品の肝であり凄いところは、ひとつの謎が解けてから、究極の葛藤が訪れるところ!
「罪と罰」「善と悪」「真実と嘘」「愛と憎」など相克の果てに迎えるラストは、それはもう「圧巻」の一言です。 「タイトルに“ダーウィン”がつく作品には外れが少ない」という持論を常々持っているのですが、本作はこの予想をはるかに上回る大傑作でした。心震える「ダーク沼ミステリ」、ぜひぜひ体感していただきたいです。(山口奈緒子)

『ダーウィン・ヤング 悪の起源』(パク・チリ著、コン・テユ訳、幻冬舎)