『​産婦人科#MeToo』(イ・ウネ/著、大島 史子/ 訳、早乙女智子/監修、沢部 ひとみ/ 解説、アジュマブックス)

「産婦人科にいつでも気軽に行ける」と心から言える女性はどのくらいいるのだろうか。産婦人科が苦手だと思っているのは自分だけだろうか。こういう問いを共有したいという思いから書かれた『産婦人科#MeToo』。日本でも韓国でも「産婦人科」といいますが、中国では「婦産科」というのだとか。そして、「産婦人科という名称を女性医学科に変更しよう」という社会的要求が韓国では活発になってきており、保健所に「女性医学科」が開設されるなど、少しずつ変化が起き始めているそうです。多くの女性たちが苦手だと思っている「産婦人科」から社会を考察する著者の鋭い視点は、日本にも大いに当てはまるものでしょう。訳者の大島史子さんからメッセージをいただきましたので、ご紹介します。

翻訳者から見た本書の大きな魅力は、著者イ・ウネさんを含む6人のレズビアンたちの対話部分です。互いを信頼し、ユーモラスに、真摯に、リズミカルに語り合う20代女性たちのやりとりは、読んでいてすぐそばで彼女たちの声が聞こえてくるようでした。
本書解説者の沢部ひとみさんは、イ・ウネさんのファシリテーターとしての有能さを指摘されました。確かにセクシュアル・マイノリティでなくとも語りづらい産婦人科での体験談を、ここまでいきいきと引き出した彼女の才能と人徳には脱帽です。
もうひとつの大きな魅力は、本書がレズビアンフェミニズムの視点から書かれていること。イ・ウネさんも自身を「レズビアンフェミニスト」としています。
レズビアンにとっての産婦人科をテーマとした本書は、レズビアンに限らずすべての女性が共感し、気づきを得られること請け合いです。しかしいっぽうでレズビアンでなければ、この本は書けなかったのでは? と思います。
「男性と性関係をもつべき」、「男性のために美しくなるべき」……世間に刷り込まれ内面化した、男性に都合のよい価値観を自覚することは、「自然と」男性を愛してしまう異性愛女性には難しいものです。たとえフェミニストであっても。
レズビアンだから、レズビアンフェミニストだからこそ気づかざるを得ず、掘り下げずにいられなかったそんな男性異性愛者中心社会の問題を、可視化させてくれるのがこの本です。心からおすすめします!(大島 史子)

『​産婦人科#MeToo』(イ・ウネ/著、大島 史子/ 訳、早乙女智子/監修、沢部 ひとみ/ 解説、アジュマブックス)