『友』(ペク・ナムリョン/著、和田とも美/訳、小学館)

北朝鮮の文学作品、『友』(ペク・ナムリョン/著、和田とも美/訳、小学館)。韓国だけではなく欧米圏でも翻訳出版され、アメリカでは2020年の「ライブラリー・ジャーナル」でBest Books翻訳文学部門の10冊に選ばれました。
舞台は1980年代における北朝鮮の地方都市。裁判所に離婚の請求を申請したチェ・スニとその夫リ・ソクチュン、離婚の審議を担当する判事チョン・ジヌとその妻ハン・ウノク、この2組の夫婦と周囲の人々の姿を通して、北朝鮮の社会と家庭が克明に描かれています。チェ・スニは歌手、リ・ソクチュンは技術者、ハン・ウノクは育種事業の研究者であるため芸術団や工場、研究などの労働の様子が細かく描かれています。地方都市で暮らす人々の生活ぶりも詳しく、また、裁判の経過から垣間見える人々の価値観や心情も丁寧に描かれています。「家庭と祖国の関係は正比例」「祖国の小さな縮図である家庭」「社会の細胞である家庭」といった表現には違和感を覚えるかもしれませんが、市井の人々の喜怒哀楽、家族であっても理解しあえないむなしさなど、私たちの誰もが抱いたことがあるであろう共通の感情を読み取ることができます。「(本作の)文体は、分断以前の朝鮮半島の大衆文学史の名残を残している。北朝鮮の文学にこのような作品があったということは、朝鮮半島全体の文学史に、いずれは記録されることになるだろう。」と、訳者解説で評されています。訳者解説も読み応えがありますので、ぜひ一度お読みいただきたい作品です。

『友』(ペク・ナムリョン/著、和田とも美/訳、小学館)