『僕のルーマニア語の授業』(チャン・ウンジン/著、須見春奈/訳、クオン)

第6回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクール最優秀賞受賞作『僕のルーマニア語の授業』(チャン・ウンジン/著、須見春奈/訳、クオン)。公共機関で働く僕は、野良猫と眼が合ったことをきっかけに、ルーマニア文学の教授になるという夢をもっていた頃の恋を思い出します。「秋をそっくりそのまま鏡に映したような」瞳のウンギョンと、ルーマニアの小説や作家について語ったことなどに思いを馳せるうちに、ウンギョンの近況を知りたくなるのですが……。孤独や不安についての描写、秋から冬への流れとともに語られる心象風景が儚く美しく、人の心の繊細さを強く感じる作品です。訳者の須見春奈さんからメッセージを頂戴しましたのでご紹介します。

本作『僕のルーマニア語の授業』は、韓国で長編・短編ともに数多く発表しているチャン・ウンジン(章恩珍)の初の邦訳作品です。孤立や疎外といったテーマを扱い、ひんやりとした雰囲気の切ない物語ですが、読後かすかな希望や温かみも感じられます。
作中では、回想を通して主人公と彼が授業で出会った寂しげな女性・ウンギョンとの関係が描かれていて、二人はルーマニア文学について語り合ううちに交流を深めていきます。彼らのように異国の文学になぜか心惹かれたり、夢中になる作品と出会って誰かと語り合いたくなったりした経験は、韓国文学を普段読まれている方もお持ちなのではないでしょうか。この作品に描かれている、寂しさの中で文学がもたらす繋がりに共感する方も少なくないのではと思います。日本の読者に向けたメッセージでチャン・ウンジン自身も「寂しい誰かにとって少しでも慰めになることを願っています」と綴っています。
どことなく寂しい秋、寒さ厳しい冬を経て、春の訪れの兆しまでが描かれた本作の刊行もちょうど春になりました。環境の変化も多い四月、不安や寂しさに寄り添ってくれる作品だと思います。ぜひお手に取っていただけたら幸いです。(須見春奈)

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『僕のルーマニア語の授業』(チャン・ウンジン/著、須見春奈/訳、クオン)