教保文庫、9月の月間ベストと注目の新刊(韓国通信)

教保文庫の9月の月間ベスト10(国内小説)と注目の新刊情報をご紹介します。長編小説『パルチザンの娘』でデビューし、『歳月』は邦訳もされたチョン・ジアの、実に32年ぶりとなる長編小説が、刊行と同時に大きな注目を集めています。キム・ヨンスの新作小説集やキム・チョヨプの初エッセー、韓国系アメリカ人キム・ジュヘの『小さな地の野獣たち』も話題です。

1位:『하얼빈(ハルピン)』キム・フン著(文学トンネ/2022.8.3)
2位:『불편한 편의점 2(不便なコンビニ2)』キム・ホヨン著(ナムヨップウィジャ/2022.8.10)
3位:『불편한 편의점(不便なコンビニ)』(40万部記念 桜エディション)キム・ホヨン著(ナムヨップウィジャ/2021.4.20)
4位:『아버지의 해방일지(父の解放日誌)』チョン・ジア著(チャンビ/2022.9.2)
1990年、両親をモデルにした長編小説『パルチザンの娘』でのデビュー後、数々の文学賞を受賞してきた著者の32年ぶりとなる長編。「韓国小説の新たな話法を繰り返し提示してきた」と評される著者が、歴史の傷跡と家族の愛を描きます。邦訳本に『歳月』(橋本智保訳/新幹社)があります。
5位:『작별인사(別れの挨拶)』(夜空エディション) キム・ヨンハ著(ポクポクソガ/2022.5.2)
6位:『어서 오세요, 휴남동 서점입니다(いらっしゃいませ、ヒュナム洞書店です)』(夏の森エディション)ファン・ボルム著(クレイハウス/2022.1.17)
7位:『아몬드(アーモンド)』(100万部記念特別版)ソン・ウォンピョン著(チャンビ/2022.5.12)
8位:『트로피컬 나이트(トロピカルナイト)』チョ・イェウン著(ハンギョレ出版社/2022.8.17)
9位:『재수사 1(再捜査1)』チャン・ガンミョン著(ウネンナム/2022.8.22)
10位:『달러구트 꿈 백화점(夢を売る百貨店 本日も完売御礼でございます)』(レインボーエディション)イ・ミイェ著(ファクトリーナイン/2020.7.8)

注目の新刊、近刊は以下のとおりです。
『보테로 가족의 사랑 약국(ボテロ家族の愛の薬局)』イ・ソニョン著(クレイハウス/2022.9.7)
ソウルの再開発地域にある「愛の薬局」は、フェルナンド・ボテロ似のぽっちゃりした夫と美人の妻が運営する、ちょっと“怪しい”薬局。店内には音楽が流れ、ハーブティーの香りが漂い、リラックスチェアーが置いてある。さらには、人を恋に落ちさせる“愛の妙薬”を販売するという。その薬局を舞台に、本当の愛の意味を探るヒューマン小説。

『책과 우연들(本と偶然たち)』キム・チョヨプ著(ヨルリムォン/2022.9.23)
『わたしたちが光の速さで進めないなら』(カン・バンファ、ユン・ジヨン訳/早川書房)などでおなじみのSF作家キム・チョヨプ初のエッセー。自身を小説家へと導いた、本との偶然の出合いなどについて綴っています。

『작은 땅의 야수들(小さな地の野獣たち)』キム・ジュヘ著、パク・ソヒョン訳(タサンチェクパン/2022.9.28)
著者は9歳のとき、家族と共にアメリカに移住した韓国系アメリカ人。幼いころから、独立運動の手助けをした祖父の話を母からよく聞かされたといいます。日本の植民地時代に小作農の娘に生まれ、妓生となった主人公オッキを中心に韓国の歴史を描くと同時に、自然破壊や戦争、飢餓に直面する人類がいかに有意義に生きるべきかも提示します。昨年、アメリカでの刊行と同時にAmazonの「今月の本」に選ばれるなど注目を集め、すでに10カ国以上の国に版権が輸出されました。同じく韓国系アメリカ人ミン・ジン・リーの『パチンコ』に継ぐ作品と評されています。

『김승옥문학상 수상작품집(金承鈺文学賞受賞作品集)2022』ピョン・ヘヨンほか著(文学トンネ/2022.9.30)
金承鈺文学賞はデビュー10年以上の作家の短編小説から優れた7編に与えられる賞で、今回は2021年7月から22年6月までに発表された作品の中からピョン・ヘヨンの「ぶどう畑の墓地」が大賞に選ばれました。ほかに、キム・ヨンス、キム・エラン、チョン・ハナ、ク・ビョンモ、ムン・ジヒョク、ペク・スリンの作品が受賞しました(ク・ビョンモの受賞作は本人の意思により未収録)。

『이토록 평범한 미래(これほどまでに平凡な未来)』キム・ヨンス著(文学トンネ/2022.10.7)
日本でも人気のキム・ヨンスによる9年ぶりとなる新作小説集。ノストラダムスの大予言が世間を賑わしていた1999年、共に自殺することを決心した20歳の大学生二人がひょんなことから、時間旅行を描いた小説『灰と塵』に触れ、意外な選択をすることになる、というストーリーの表題作をはじめ、8編を収録しています。著者の邦訳本は『ぼくは幽霊作家です』『夜は歌う』(ともに橋本智保訳/新泉社)、『世界の果て、彼女』(呉 永雅訳/クオン)、『ワンダーボーイ』(きむふな訳/クオン)、『波が海のさだめなら』(松岡雄太訳/駿河台出版社)、『四月のミ、七月のソ』(松岡雄太訳/駿河台出版社)、『ニューヨーク製菓店』(崔真碩訳/クオン)など多数あります(文/牧野美加)。