教保文庫の10月の月間ベスト10(国内小説)と注目の新刊情報をご紹介します。8月に長編を刊行したばかりのキム・チョヨプさんですが、さらに小説集がほぼ同時に2冊刊行され注目を集めています。
1位:『달러구트 꿈 백화점2(ダラグート 夢の百貨店2)』イ・ミイェ著(ファクトリーナイン/2021.7.27)
2位:『달러구트 꿈 백화점(ダラグート 夢の百貨店)』(50万部記念ドリームエディション)イ・ミイェ著(ファクトリーナイン/2020.7.8)
3位:『불편한 편의점(不便なコンビニ)』キム・ホヨン著(ナムヨップウィジャ/2021.4.20)
4位:『작별하지 않는다(別れられない)』ハン・ガン著(文学トンネ/2021.9.9)
5位:『완전한 행복(完全な幸福)』チョン・ユジョン著(ウネンナム/2021.6.10)
6位:『지구 끝의 온실(地球の果ての温室)』キム・チョヨプ著(ジャイアントブックス/2021.8.18)
7位:『방금 떠나온 세계(さっき後にしてきた世界)』キム・チョヨプ著(ハンギョレ出版社/2021.10.20)
『わたしたちが光の速さで進めないなら』(カン・バンファ訳/早川書房)に続く著者2作目のSF小説集。第11回若い作家賞受賞作「認知空間」、2021今年の問題小説に選ばれた「古びた協約」を含む全7篇を収録しています。
8位:『아몬드(アーモンド)』ソン・ウォンピョン著(チャンビ/2017.3.31)
9位:『1차원이 되고 싶어(一次元になりたい)』パク・サンヨン著(文学トンネ/2021.10.8)
10位:『밝은 밤(明るい夜)』チェ・ウニョン著(文学トンネ/2021.7.27)
『행성어 서점(惑星語書店)』キム・チョヨプ著(マウムサンチェク/2021.11.1)
2作目の短編集『방금 떠나온 세계』とほぼ同時期に刊行された短編集で、「マウムサンチェク短い小説」シリーズの1冊です。10~20ページ前後の比較的短い小説が14篇収録されています。手術の後遺症で何かが身体に触れるとひどい苦痛を覚える「接触症候群」の患者の物語「サボテンを抱きしめる」、人々の脳に通訳モジュールが埋め込まれ数万個の銀河言語がわかる世界で、モジュールは埋め込まれていないが独学で惑星語が読めるようになった教授の物語「惑星語書店」、菌糸体の連結網が集団知能を構築している沼に突如現れた未知の少年の物語「沼地の少年」など。自分と異なる他者や少数者の人生に向き合い、多様性の共存について考えさせる一冊です。超現実主義の絵で注目される新鋭イラストレーター、チェ・イノの挿絵も掲載されています。
『선릉 산책(宣陵散策)』チョン・ヨンジュン著(文学トンネ/2021.10.20)
著者の6年ぶり3作目の小説集です。「他人の人生に対する偏見や誤解を打ち砕いていく繊細な感情の波動の記録」と評され、若い作家賞と黄順元文学賞を受賞した表題作「宣陵散策」(藤田麗子訳/クオン)、文知文学賞受賞作「消えゆくものたち」、2021金承鈺文学賞優秀賞に選ばれた「ミスターシンプル」を含む全7篇を収録しています。
『나인(ナイン)』チョン・ソンラン著(チャンビ/2021.11.5)
『千個の青』(カン・バンファ訳/早川書房)の著者による新作長編。チャンビのYAシリーズ「小説Y」の1冊です。おばと二人で地球で暮らす平凡な高校生ユ・ナインはある日突然、植物の声が聞こえるようになり、2年前に起きたある失踪事件の顛末を知ることとなります。著者は以前、公園で声をあげて泣いているとき、ふと草木が自分の泣き声を聞いているかもしれないと思ったそうで、それがこの物語が生まれるきっかけになったそうです。
『네 번의 노크(4回のノック)』ケイシー著(インフルエンシャル/2021.10.28)
世界文学賞受賞作家のチョ・ヨンジュから「宮部みゆきに似ている」と評された著者のデビュー作です。女性専用ワンルームマンションで一人の男性が死に、同じ階で暮らす女性6人が捜査線上にのぼることから始まる物語。最後まで予測のつかない結末、反転に反転を重ねるストーリー、スピード感のある文体、典型的でない女性キャラクターで読者をつかむ「K-ミステリー」です。著者みずから制作した電子本をオンライン書店で販売したところミステリー関連のネットコミュニティーで話題となり映画化も決定、その後、紙の書籍が刊行されました。(文/牧野美加)