日韓出版人交流プログラム「第3回 人文書編集者に聞く―著者をどのように発掘するか」レポート

2021年はオンライン開催となった、K-BOOK振興会主催の日韓出版人交流プログラム。6月25日には「第3回人文書編集者に聞く―著者をどのように発掘するか」が行われた。

ゲストは、韓国でひとり出版社の代名詞とも言われているUU出版社代表のチョ・ソンウンさん。『“ひとり出版社”という働きかた』(西山雅子さん/河出書房)や『本を贈る』(若松英輔さん他9名の共著/三輪舎)などの韓国での出版も手がけている。

「零細出版社が生き残るための唯一といってもいい方法は、コンテンツと書く力を持っている国内の新しい書き手を発掘していくこと」そう語るチョさんが率いるUU出版社は、現時点でメンバー5人(チョさん含む)という小規模ながら、韓国の書店と読者に絶大な支持を得ている。どのような基準で著者を発掘し、本づくりをしているのか。お話をしてくださった。

イベント概要

テーマ:日韓出版人交流プログラム「第3回人文書編集者に聞く―著者をどのように発掘するか」
開催日:2021年6月25日(金)19:00〜21:00pm
スピーカー:UU出版社代表チョ・ソンウンさん

「読者の勉強をサポートする」本をつくる

チョさんは、2003年に韓国外国語大学中国語学部を卒業した。ドキュメンタリー制作会社や出版社で働いたのち、2012年にもう1人の編集者と共にUU出版を立ち上げた。

UUという社名は、「悠々と楽しく本をつくりたい」という気持ちから、「悠々自適(韓国語では유유자적)」の「悠々」2文字をとって名付けた。創業以来、人文教養分野、なかでも一般読者にも読みやすい入門書を中心に、110種類以上の本を出版してきた。

どんな分野の本を作っていくかは、以下の2つのキーワードを軸に決めたという。

1. 長い間(自分が)つかれずにつくることができる
2. 損益分岐点を超える販売量が見込める

その軸で考えたところ「勉強」にたどり着き、UUは「読者の勉強をサポートする本を作る」という方針を決めた。

創業後、『ハードワーク』(단단한 공부)、『勉強する人生』(공부하는 삶)、『勉強本』(공부책)と勉強に関する書籍をつづけて出版したところ、1万部以上の販売部数に至り、初期の財政基盤を固める財源となった。

 

国内外の著者とどう出会うか

海外の著者を発掘し本を出版するには、専門エージェンシーを頼るのが通例となっている。しかし、エージェンシーが注目する著者や書籍となると、小規模の出版社では版権獲得競争で勝負にならない。そのためUU出版ではこの方法はとらないと決めている。

代わりに、アマゾン、中国の当当書店、台湾の博客來(ポーカーライ)などのネット書店や、版権が切れた書籍を集めたプロジェクト・グーテンベルクで検索し、気になる本は取り寄せて原著を読むなどして、地道に探している。

では、国内の著者を発掘するためにはどうしているのか。主に3つの方法をとっている。

まず、人文教養書の新刊をできるかぎり読むこと。

つぎに、同業者である編集者から探すこと。編集者はいい書き手になる可能性も高く、有名な例でいうとベストセラー作家のチョン・セランさんも編集者出身だ。

そして、Facebookのタイムラインをチェックすること。日常生活や好きなものを気負わず書くひとが多く、「UUで本にしたい」と思える文章との出会いから本の出版に至った事例もいくつかある。そのため気になる相手にはあらかじめ友達申請もしておく。

 

編集者のための勉強本をシリーズに


UUでは編集者のための勉強本をシリーズで刊行しているのだが、『編集者になる方法』という本がきっかけとなって生まれた。著者は編集者向けの講座をもつ講師で、単行本の編集ノウハウをまとめた本なのだが、出版記念イベントに応募者が殺到し、その多くが経歴が浅い新人編集者か編集者志望者だった。

チョさんは自身の経験からも、出版社には新人が編集を学ぶための教育システムや適切なフィードバックがないことを知っていた。そのため、この課題を解決するために本をつくることにした。

知っている編集者に声をかけ、文学、経済経営、歴史、実用、人文教養、社会科学、エッセイ、科学の8つの分野で執筆を依頼し、2020年9月から2021年5月にかけて出版した。初版は2,000部ずつ、重版がかかったのはいまのところ2種類だが、今後も継続的に売れていくだろうと見込んでいる。

 

「文章のプラットフォームをつくり、作家の発掘・紹介の場を」ピーナッツ文庫シリーズと文章シリーズ

UU出版らしい本作りの例として、チョさんが紹介してくれたのがピーナッツ文庫シリーズ(땅콩문고시리즈)と文章シリーズだ。

この2つのシリーズを「文章のプラットフォームのようなもの」だと、チョさんは捉えている。どちらも一定の型が決められており、その型に沿ってコンテンツを入れていく形式になっている。そのため、執筆経験が浅い著者にとっても比較的負担が少なく、引き受けやすいのではないかと考えている。

ピーナッツ文庫はページ数が少なく、制作費を抑え、新人作家を発掘・紹介するよい方法にもなっている。
(*従来の単行本は1,000枚前後だが、ピーナッツ文庫は400枚程度)

文章シリーズはある1つのテーマについて学びたいと考え、かつそのことについて書く文章力のある著者に機会を与え、紹介する場となっている。


ピーナッツ文庫は、「博物館を観る方法」「絵本を読む方法」「書評を書く方法」など、さまざまなテーマに読者が気軽にアクセスできる方法を扱っている。1冊あたり160〜200ページで、原稿用紙400枚前後の長さの本となる。


文章シリーズは、「本についての言葉」「配慮についての言葉」「考えについての言葉」など、あるテーマについて著名人が残した言葉100個が紹介され、それらに対して著者がコメントをつけている本だ。

見開きの2ページが対となっており、左側には著名人が残した言葉の引用、右側にはこの言葉に対する著者のコメントが900字以内でまとめられている。なぜ著者がこの言葉に関心を持ったのか、どうして今読者が読むべきなのかなどが書かれており、読者に読むモチベーションを与える内容となっている。長い文章を読むのが苦手な読者でも、関心のあるテーマについて、わかりやすく学べるようなつくりにしたのが特徴となっている。

 

生き残るために、新たな書き手を発掘していく


(『習慣の言葉』文章シリーズで人気の1冊。累積で7,000部売れている)

出版社を維持していくためには、国内の著者と継続的に仕事をしていく必要がある。しかし、零細出版社には確実な売上が見込める著名な作家と仕事をするのはとても難しい。そういった作家は大手の出版社から本を出したいと思うのが普通だろうし、自分たちと仕事をしようとしてくれたとしても、広報やマーケティング、原稿修正などへの高い要求に応じるのが難しい場合もある。

そのため、有名ではなくても、本を出版できるレベルのコンテンツと文章力を持つ書き手を発掘していくことが、自分たちが生き延びるための唯一の方法だと考えている。

韓国では、自分の名前を出して本を出版していこうとする人々が年々増えており、高額の作文教室や塾が流行っている。きちんとした本を書こうと志す人なら多くの本を読んで学ぼうとするはず。こうした傾向は出版社にはいいビジネスチャンスでもあると捉えている。

 

<イベント視聴を終えて>

ピーナッツ文庫シリーズや文章シリーズを「文章のプラットフォーム」と称し、著者とUU出版両者にとってメリットがある構造になっている。

型を定めることにより、経験の浅い書き手にも書きやすい環境を用意し、それが本の質にもつながることで、UU出版にとってもリスクを抑えつつ、新たな書き手を紹介できる場となっている。

著者、UU出版、そしてもちろん読者にもメリットがあり、そのようなよい循環をつくり出せているからこそ、UU出版がブランドとなり、書店や読者、そして書き手にも強く支持されているんだろうなと理解した。

次回のゲストは、絵本の編集歴20年のウ・ジヨンさん。絵本作家とどのように作業するのか。 絵本の読者はどのように開拓するのか。絵本づくりのノウハウと、特に心掛けていることについてお話を伺う。

「第4回 絵本編集者に聞く」
日程:2021年7月16日(金)19:00~21:00
スピーカー:絵本編集者ウ・ジヨンさん

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(文責:森川裕美)