●本書の概略
主に社会的弱者に焦点を当てた作品を数々執筆してきた著者の、自身の「家」にまつわるエピソードを集めた散文集。
著者は谷城(コクソン)、光州(クァンジュ)、麗水(ヨス)、春川(チュンチョン)や、ドイツ・ベルリンなど国内外を転々としていた。最終的には、残りの人生を過ごすための「家」を求めて潭陽(タミャン)郡スボクへと移動したが、どの家にも思い出がある。「家」の話でありながらそれはまた著者の人生の話でもあるようだ。
1部と2部では著者が過去に住んでいた「家」、3部には現在住んでいる潭陽郡スボクの「家」にまつわる話が計28編収録されている。
●目次
1部 私の家と年月
2部 家を探して
3部 食も家も一つに
●日本でのアピールポイント
「家」は衣食住という人間生活の基本の一要素を成す重要なものであるが、それが自分にとってどのようなものであるかを深く考えることはあまりないかもしれない。この本を通して、「家」はただの住む場所ではなく、近所に住む人々との関わり合いや、その土地・地域の雰囲気など自己の形成に大きく影響しているものなのではないかと考えさせられる。また、住む場所であるからこそ「家」には様々な思い出が詰まっている。本の中でも触れられているが、韓国では不動産への投資が活発で「家」は住むためではなく、お金儲けの道具として購入する人も少なくない。「家」という「もの」が重要なのではなく、それにまつわる思い出など「無形」の価値が私たちにとっては重要であると教えてくれる一冊だ。
(作成:上坂さつき)