●本書の概略
本書はか弱い存在にスポットを当て、読者に勇気を与える作品を描くことに定評のある作者によるYA小説。著者自身がバセドウ病を患った経験をもとに、バセドウ病と闘う高校生の姿を描く。タイトルにある「2メートル」という距離は、世界中で新型コロナウイルスが拡大してから嫌というほど意識させられてきた他人との距離でもある。実際に本書は2018年に出版されたが、コロナ禍の韓国でSNSを中心に再び話題を集めている。
中学一年生のときバセドウ病と診断されたヨヌは、病気のせいで日々変わりゆく外見や周囲の偏見の目に苦しめられるが、その胸の内を打ち明けられる相手は誰もいない。数年間、薬物治療を続けるがあまり効果は見られず医師の勧めで放射線を使用した治療を受けることになる。治療後は被ばくの可能性があるため、48時間、周囲と2メートル以上の距離を取ることを余儀なくされる。息をするだけで周りを被ばくさせてしまうかもしれないという漠然とした不安と孤独感から逃げるように隔離場所へと向かうヨヌだが、そこで自分を支えてくれる人びとの存在を改めて意識し、一人ではなかったことに気付く。そして今後も病気に向き合うことを静かに誓うのであった。
●目次
プロローグ
1.体質が変わったんじゃない、病気だよ
2.家出を決心させた文章
3.わたしって、元気にやってたっけ?
4.接近禁止、被爆の可能性アリ
5.地球人、わたしの相棒
6.隔離できる平和に向かって
7.バイバイ。でもお礼は言わないよ
エピローグ
作者あとがき
●日本でのアピールポイント
日本甲状腺学会によると、現在日本における甲状腺疾患の患者数は500~700万人といわれていて、身近な病気の一つだ。社会の関心も少しずつ高まっており、山内泰介『若葉香る-寛解のとき』などバセドウ病患者をモデルにした小説も出版された。 本書ではバセドウ病の病気そのものに深く切り込んではいないものの、感受性豊かな10代の女性をモデルにすることで甲状腺疾患が日常生活にどんな影響を及ぼすのかを丁寧に描写している。
本書の大きなテーマである「共感」は、病気になった主人公の思いに寄りそうこともそうだが、同級生や家族の振る舞いからも学べる部分が多い。自分と異なるという理由で、自分より弱いという理由で、無意識に誰かを傷つけてはいないか? 想像し共感することの大切さを、著者は問いかけているのかもしれない。他人との付き合い方や距離の取り方を改めて考える機会が多い今、読者に何らかの気づきや勇気を与えてくれる一冊だ。
(作成:中川里沙)