BTS芸術革命〜防弾少年団とドゥルーズが出会った〜(BTS 예술혁명)

原題
BTS 예술혁명 방탄소년단과 들뢰즈가 만나다
著者
イ・ジヨン
出版日
2018年4月19日
発行元
パレシア
ISBN
9791196356903
ページ数
244
分野
人文

●本書の概略

防弾少年団(以下、BTSと略)とARMYが連帯、実践して社会に起こした様々な変化を“BTS現象”と名付け、その革命的意味を哲学的な側面から解明していく。ARMYとは防弾少年団のファンダムを意味するが、ARMYはもはや単なるファン、単なる消費者として括ることはできない存在となっている。ARMYとはBTSの活動に無条件の愛と絶大なる支持を示し続ける友人であり、世界進出を手助けする軍隊であり、共に芸術を完成させていくパートナーでもある。著者イ・ジヨンは、ドイツの哲学者、ヴァルター・ベンヤミンの芸術変化に関する歴史的認識と、フランスの哲学者、ジル・ドゥルーズの映画哲学をもとに、BTSとARMYが作り出した新しい芸術形式がもたらす社会的役割について分析する。アメリカ・TIME誌の“2019年世界で最も影響力のある100人”に選ばれたBTSとARMYが持つ真の価値と、彼らが引き起こした変化の革命的な意味がわかりやすく読み取ることができる内容となっている。

●目次

私はなぜこの文を書くのか

第1部:BTSが起こした革命

  1. BTSが引いた引き金
  2. 歌に込められた社会批判メッセージ/違う夢を見る、違うダンスを踊る/軽快な嘲笑で進撃!/父殺し、既存の秩序と規範の解体/連帯せよ、地球を超えて宇宙まで!
  3. ヒエラルキーの解体
  4. 水平的ファンタジーの生成/グローバルARMYが成し遂げた成功/ファンたちが生み出すコンテンツ/英語中心だった権力構造の解体/既存の秩序が無力化するところから変化は始まる
  5. 連帯によるリゾーム的革命
  6. リゾーム:水平的で非中心化された体系/連結接続の原理/非等質性の原理と多様体の原理/非意味的切断の原理/地図製作法の原理/“戦争機械”としてのBTS-ARMY多様体/革命的実践の方向と希望の地図

第2部:新しい芸術形式としてのネットワーク・イメージ

  1. BTS映像の構造的特徴
  2. ミュージック・ビデオの一般的な特徴:叙事的連続性の破壊/BTS映像の開かれた構造/類似したイメージの反復と変形/イメージの象徴性/オンライン・インスタレーション映像/相互参照性と観客の参加/ネットワーク・イメージの出現
  3. ネットワーク・イメージと共有価値
  4. ネットワーク・イメージの特徴/技術の発展と芸術の変化/モバイル・ネットワークによる情報解放・参加・共有/観客の現実的移動性と共有価値/新しい芸術形式の前兆たち/新しい芸術形式と民主化、そして希望

ドゥルーズの時間〜イメージの向こう側:ネットワーク・イメージ

●日本でのアピールポイント

世界で最も人気のあるボーイズグループとなったBTS。全世界の音楽産業を制覇した彼らは文化的にも世界的規模の波及力を合わせ持つ。それには、BTSのファンダム・ARMYの存在が切っても切り離せない。ARMYとはBTSの公式ファンクラブの名称であり、“Adorable Representative M.C for Youth(若者を代表する魅力的なMC)”でもある。

BTSが発表するすべてのコンテンツをほぼリアルタイムで翻訳して、必要であれば文化的背景を追加で説明する各国語での翻訳アカウント、BTSのボランティア活動のサポートをするアカウントや、ファンたちの悩み相談専用アカウントなど独自の様々なアカウントを生みだし、“jinja(チンチャ、本当)”“chingu(チング、友だち)”といった言葉を全世界共通で使用し、社会やメディア、文化の構造変化まで起こしている。TIME誌では“2019年世界で最も影響力のある100人”に続き、“インターネット上で最も影響力のある25人”にも選ばれ、ますます拡がりを見せている“BTS現象”の秘密を知るためにも読んでおきたい1冊。

著者はBTSの特集番組などでもコメンテーターとして登場するイ・ジヨン教授。BTSとARMYがなぜここまでの存在になり得たのか、彼らが成し遂げた芸術革命とは何かを、ドゥルーズのリゾーム理論(リゾームとはフランス語で地下茎を意味し、上下関係ではなく地下で自由に広がり様々なものを生み出していくという概念)など哲学的なアプローチから分析していく。BTSの作品には、芸術、哲学、心理学などからの引用が多く見られるため、ARMYはヘルマン・ヘッセやドゥルーズなどを研究し、BTSはファンを勉強させるアイドルとしても有名となった。本書も世界のARMYからの要望殺到により英語翻訳版がすでに出版されており、日本のARMYに向けて日本語翻訳版の出版は必須。また、“WITH コロナ”時代の到来により急激に変化し続ける現在のメディア・ネットワーク環境と付き合っていく上でも重要な指針を与えてくれる1冊となることだろう。

作成:大森美紀

著者:イ・ジヨン
ソウル大学においてジル・ドゥルーズの“『シネマ1 運動イメージ』に関する研究”で哲学博士号を取得後、英国・オックスフォード大学で映画美学に関する2番目の博士論文を発表。韓国芸術総合学校、ソウル大学、弘益(ホンイク)大学、オックスフォード大学で講師を務め、現在は、世宗(セジョン)大学テヤン・ヒューマニティ・カレッジに招聘教授として在籍中。ドゥルーズの映画哲学や、モバイル・ネットワーク時代のオンライン映像、ビデオ・インスタレーション、フッテージ映像、実験的ドキュメンタリーなど、映画と近似する映像芸術との間で展開する芸術の変貌に焦点を当てた存在論的美学研究を行っている。著書に『哲学者が愛した絵』『Deleuze in China』『Nobody knows when it was made and why』(以上、共著)、『ドゥルーズの映画哲学:シネマを越えて』があり、訳書に『フーコー』『ドゥルーズ哲学と映画』など。また、「映画の境界:映画と歴史」「モバイルネットワーク・プラットフォーム社会のデジタルシネマに関する研究」「アピチャッポン・ウィーラセタクンの“プリミティブ”プロジェクトの構造」など多数の研究論文がある。(本書・著者紹介より)