「町の本屋さん巡り」リポート(韓国通信)

釜山にある「町の本屋さん」8店によるイベントが5月末から6月初めにかけて開かれました。8店が合同で本を販売する出張ブックマーケットや書店員によるブックトーク、各書店のスタンプラリーなど盛りだくさんの内容でした。書店を巡るツアーに参加したのでご紹介します。
今年で3回目となるツアーは、個人書店の集まる望美洞エリアを徒歩で回るコースと、点在する書店を車で回るコースの2つに分かれていて、訪問するのはそれぞれ4店。参加費1万ウォンを払うと8店共通で使える1万ウォン分のクーポンがもらえます。
私が参加したのは車で回るコースで、「책과아이들(本と子どもたち)」、「카프카의밤(カフカの夜)」、「책방숲(書店フォレスト)」、「북살롱_부산(ブックサロン釜山)」の4店を訪ねました。徒歩コースは人文学書店「책방 한탸(書店ハンティア)」、フェミニズムやクィア、ヴィーガンをテーマとした「비비드(ビビッド)」、旅行関連書店「비온후책방(雨上がり書店)」、自然科学書店「동주 책방(トンジュ書店)」の4店でした。
最初の訪問先は以前このコーナーでもご紹介した児童書店「本と子どもたち」です。店内見学後、5階のギャラリーに移動して、済州市の咸德小学校の5、6年生15人が制作した絵本と原画を鑑賞しました。済州島では2007年に漢拏山天然保護区域、コムンオルム(拒文岳)溶岩洞窟系、城山日出峰の3地区が「済州 火山島と溶岩洞窟」という名称で韓国初のユネスコ世界自然遺産に登録されましたが、咸德小学校のある朝天邑善屹里という村はそのコルンオルムの位置する場所です。自然豊かな村で暮らす小学生たちの描いた絵は、とても生き生きとして迫力がありました。1人1冊の絵本に仕上げてあります。
ギャラリーではそのほか、済州の乱開発や環境破壊をテーマにした「最後の済州」という写真展も開かれていました。全国7都市の書店約20カ所で展示されていたそうです。写真だけでなく、邦訳本『いろのかけらのしま』の原書など環境問題の本や、済州に関する本も紹介されていました。

 

 

 

 

 

 

 

次の訪問先は「カフカの夜」です。昼間は公務員として働きながら夜は小説を書いていたというフランツ・カフカのように、仕事から疲れて帰ってきても自分のための時間を持ちたいと考えた代表のケ・ソニさん(写真左)がオープンしました。目の前に区の図書館がありますが、「当店には図書館にないような独立出版物や個性的な本が多いので、図書館帰りに立ち寄る人も多いです」とのこと。出版の全過程を学ぶワークショップも開催していて、受講生たちの制作した本が展示されていました。

 

 

 

 

 

 

 

3店目の「書店フォレスト」はグラフィックデザイナーのイ・ジヨン代表(写真)が友人と2015年にオープンした店です。もともと書店を開こうと思っていたわけではなく、グラフィックデザインのスタジオをオープンする際、せっかくだから同じスペースで書店もやろうという話になったそうです。グラフィックデザイン関連書や芸術書、独立出版物を扱っていて、表紙の材質やデザイン、形などが個性的で目を引く本が並んでいました。ブックトークやデザイナートーク、ワークショップも活発に行われています。

 

 

 

 

 

 

最後に訪ねた「ブックサロン釜山」は小説や詩、絵本などを扱う人文学書店。案内してくれた店員さん(写真)いわく「さまざまな分野を広く浅くカバーする書店」だそうで、カフェも併設されています。コーヒーやビールを飲みながら閲覧できる本のコーナーや、絵本の登場人物を再現した人形の展示コーナーもありました。読書会や作家を招いてのトークイベント、自分の好きな詩をカリグラフィーで書く文化教室なども開かれています。

 

 

 

 

 

 

こうした地域の個人書店は、大型書店で見かけないような個性的な本に出会えることや店員さんとの対話が大きな魅力だとあらためて感じました。店長さんがセレクトした本のおすすめポイントなどを聞きつつ本棚を見て回る楽しみは個人書店ならではでしょう。どの店も、本の売上以外にも収益が得られるよう工夫していました。長く続けてほしいと思います。(文・写真/牧野美加)