『四月のミ、七月のソ』(キム・ヨンス/著 松岡雄太/訳 駿河台出版社)

李箱文学賞をはじめ数々の権威ある文学賞を受賞し、韓国の文学界を代表するキム・ヨンス作家。『世界の果て、彼女』(呉永雅/訳、クオン)、『ぼくは幽霊作家です』(橋本智保/訳、新泉社)に続く邦訳3冊目の短篇集『四月のミ、七月のソ』(松岡雄太/訳 駿河台出版社)が出版されました。2009年李箱文学賞受賞作「散歩する者たちの五つの楽しみ」を含む11篇の短篇集です。キム・ヨンスさんの作品は〈人との“疎通”〉〈歴史との“疎通”〉など、“疎通”がテーマとなっているものが多いですが、本短篇集も、他者と疎通し理解することの不可能さと、不可能ななかでのほの明るさが通奏低音となっています。訳者の松岡雄太さんからメッセージを頂戴しましたのでご紹介します。

私たちはときとして自分本位になりがちです。恋人や友人、家族であっても、突きつめてみれば、みな「他人」。他人の気持を理解してうまくつき合っていくのはなかなか難しいものです。加えて、変化に富んで先行きの見えない現代社会。人生は自分の思うようにいかないことばかり、不満ストレスはたまる一方です。そして、もしここまで平穏で順調に来ているとしても、苦しみや不幸はある日突然やってきます。ですが、こんな暗中を模索するような生にあっても、探してみれば、きっと一筋の光が見つかるはず。他人や社会に不平不満をこぼすより先に、私たちはそれを探す努力をすべきなのかもしれません。たとえその光がとても小さくて頼りなく、幻想に近いものだとしても・・・・・・。(松岡雄太)

『四月のミ、七月のソ』(キム・ヨンス/著 松岡雄太/訳 駿河台出版社)