●本書の概略
2019~20年にかけて各国で「パラサイト旋風」を巻き起こし、その名を全世界に知らしめた映画監督ポン・ジュノ。過去作も人気を集める一方で、彼の作品は難解な部分も多い。そんな作品の参考書ともいえるのが、韓国屈指の映画評論家イ・ドンジンが多角度からポン・ジュノ監督作品に迫る本書である。『パラサイト』189のシーン別解説や監督との対談をはじめ、過去作6篇の解説も網羅。ポン・ジュノ監督の軌跡と作品世界をテーマに、イ・ドンジンの映画愛あふれる考察が楽しめる一冊。
●目次
はじめに
- パラサイト 半地下の家族
- オクジャ
- スノーピアサー
- マザー
- グエムル-漢江の怪物-
- 殺人の追憶
- 「ほえる犬は噛まない」
- イ・ドンジン×ポン・ジュノ ブーメランインタビュー
●日本でのアピールポイント
『パラサイト』鑑賞後に残った、あの奇妙な余韻。劇場を出るなり、スマートフォンで「パラサイト 考察」と検索した人は少なくないはずだ。圧倒的な衝撃の正体は何だったのか―。ひとつの答えを提示してくれるのが本書である。
日本ではよく「韓国の格差社会を描いた作品」と紹介されるが、日本に関係ない外国の話と切り捨ててしまってはいけない。本書では、『パラサイト』の登場人物に“絶対的な悪役”がいないことに言及し、誰が悪いわけでもないのに悲劇が起きた―、そういう得体の知れなさが作品の核にあるとしている。対談ではポン・ジュノ監督も、さまざまな属性の人が混じりあって暮らす現代は常に悲劇の可能性をはらんでいると話す。観客自身も他人事ではないと感じたからこそ、世界中の人の心に深く刻まれたのではないだろうか。
著者は韓国の人気映画評論家イ・ドンジン。彼が支持を集める理由は“分かりやすさ”にある。ポン・ジュノ監督作品も彼の手にかかれば、もつれた糸をほどくように解き明かされていくから不思議だ。『パラサイト』の考察は日本にも山ほどあるが、韓国らしさが凝縮された作品だからこそ、韓国屈指の映画評論家による考察はたしかな説得力をもつだろう。
作成:味志佳那子