●本書の概略
読書離れが進むなか、本や文学を身近に感じられるようにと、主に10代を対象に企画された「小説との初めての出会い」シリーズ第13作目の短編小説。お化けや鬼と相撲をとるという、韓国ではお馴染みの昔話に独自の設定を加え、子どもたちの想像力をかきたてる現代風ファンタジーに仕上げている。迫力ある挿絵も物語を効果的に引き立てている。
10歳を前にすでに体重が60キロを超えていた主人公は、高校入学後、大柄な体格を生かしてシルム(朝鮮相撲)を始める。卒業後はプロ選手としても活動するが成績不振で挫折。相撲を諦め、青い瓦屋根のガソリンスタンドでアルバイトをしていたところ、店長が奇妙な提案を持ちかけてきた。「この地に昔からすみついているお化けと相撲をとってみないか。勝ったらお前をプロゴルファーにしてやる」。店長の高祖父と祖父もそのお化けと勝負したという。提案を受け入れる主人公。決戦の日、マンホールの中から現れたのは、悪臭を放つ、異様な姿のお化け。熱戦の末になんとかお化けを倒した主人公は店長の支援でプロゴルファーとなり、結婚して幸せな人生を送る。やがて老年になった主人公は、あのとき負かしたお化けが言い残した「50年後」の相撲を自分の代わりにとってくれる青年を探しはじめる。かつての店長のように。
●日本でのアピールポイント
国を問わず子どもたちの興味をそそる「お化け」や身近なスポーツ「相撲」が登場し、物語がテンポよく展開するので日本の子どもたちも話の中にすっと引き込まれるだろう。両親の不在や貧困など、困難な環境を受け入れて前向きに生きる主人公の姿勢は、子どもたちの共感を呼ぶのではないか。主人公と、親代わりに育ててくれた祖母、かわいがってくれたガソリンスタンドの店長との心の交流も描かれており、読後にほっこりとした余韻が残るのも魅力だ。
作成:牧野美加