●本書の概略
新聞記者である著者が東京特派員として日本滞在中、認知症患者や介護殺人について長期間取材し、韓国内ではまだ見ないようにしている介護殺人とその裏にある様々な問題を世に知らしめるため書いた小説。交換日記の形式をとる。
高校時代、地域の文学教室で彼は一つ下の妻と出会う。妻は出会った時から道端に咲くコスモスのように地味だが可憐な女性だった。当時、妻から自分の書いた文章を読んで感想を教えてほしいと請われ、交換日記を始める。彼はその日あった出来事をまるでシナリオのように生き生きと描き、妻はそんな彼の文章を好んだ。二人は日記を通しお互いの深いところに触れ合い、やがて結婚する。一人息子を授かり、彼はコピーライターとして忙しく過ごしていたが、四十代半ばで追われるように会社を退職する。その後は妻が家計を支え、妻の愛に包まれて生きてきたと自覚する彼は、年老いて認知症になった妻が求めることすべてを叶えることが自分に残された唯一の責務だと考え、献身的に妻の世話をする。
妻が失った記憶を取り戻せるよう、彼は出会った頃のように、その日の出来事を記録した交換日記を始めるが、妻の返事は次第に短くなり、ついには白紙になってしまう。症状が悪化していく中でも、妻の願いを叶え、東京・巣鴨へ旅したり、キャンピングカーでの済州島旅行も実現させるが、ある日、「あなたのことが誰だか分からなくなったら、あなたに殺して欲しい」と妻に言われる。妻は体面を気にする性格だったから、相手が誰だか分からなくなったということを他人に知られたくないだろう。それなら、夫である自分のことを分からなくなったその日、自分も一緒に死のうと決意する。
そして、その日がやってきた。西海に旅に出て夕日を見た後、二人の思い出のネクタイで妻の首を絞めるが、果たせなかった。その後、いつも出かけていた近隣の町の湖で、今度は車を崖下目がけて突進させるものの結局、彼一人生き残ってしまう。拘束される前、遺品整理をしていた彼は、妻が使っていた鏡台の引き出しに妻からの短い手紙を見つける。そこには自分がいなくなった後はどうか自由に過ごして欲しい、そして、次に会うときには二人の交換日記を持って来てほしいと書かれてあった。殺人罪で服役中の彼は、返事のない交換日記を今も書き続けている。
●目次
1部
2部
エピローグ
妻からの最後の手紙
●日本でのアピールポイント
日本では珍しくなくなった認知症を扱う介護小説が、お隣の国ではどのように描かれているか、そんな視点で読むこともできるだろう。日本では伝統的である妻が病気のパターンではあるが、認知症になった妻を愛しく思いながら大切に扱い、献身的な介護の果てに共にあの世へ旅立とうとする夫の姿は、韓流ドラマのように、日本の女性たちの心を溶かすかもしれない。
(作成:庭山真理子)