悲しい心を抱く人(슬픈 마음 있는 사람)

原題
슬픈 마음 있는 사람
著者
チョン・ギヒョン
出版日
2025年6月18日
発行元
スイミングクル
ISBN
9791193773109
ページ数
336
定価
18,500ウォン
分野
小説

●本書の概略

編集者として本を愛してきたチョン・ギヒョンが贈るはじめての小説集。8つの短編にはギウン、セミ、スンジュという人物が複数回登場し、まったく異なる世界観にも関わらず、話の繋がりを暗示する。物語を外から見せるにとどまらず、本の中へと引きずり込むような強い光を放つ存在感のある一冊。

「足元のこと」
工事が中断され放置された病院の建物では、大勢の小人がひしめきあって暮らす。次の入居審査では、騒がしいここを抜け出して憧れの場所に引っ越せることを期待していたセミ。その場所とは、視覚障害者イム・ジュンソプの静寂に包まれた家だ。しかし、ジュンソプは10日後に死刑になることが決まった。前の住民だった小人が我が物顔で暮らしていたことが原因で、彼にその存在を知られてしまったのだ。小人の存在に気づいてしまった人間は死を逃れることができない。家主が変わると再び調査が必要になるため、セミの入居の夢は絶望的に。ならば死刑までの数日間、ジュンソプの家で暮らしてしまおうと決めたセミ。友人のジェユンとともに静かに過ごしていたが、ジュンソプは二人の存在に気づき、食べやすいもの、温かい寝具をそっと用意してくれた。意を決して声をかけたセミに、彼は決して驚くことなくワインを進めてきた。「ついに私にも特別なことが起きたようだ」と。死刑のことを伝えられないまま時は過ぎ、夜中に刑執行の事前調査のため小人たちが乗り込んでくる。先発隊の小人を制圧したセミとジェユンは、寝ていたジュンソプを起こし「夜食を頼んでほしい」「人間と暮らしたらやってみたかったことなのだ」とピザやチャンポン、ハンバーガーなどたくさんの食べ物をねだる。時間差で次々と訪れる配達員によって、外で待機しているほかの小人たちを追い払う作戦なのだ。「まだ何も変わってはいない」。キッチン、リビング、そしてジュンソプの後ろ姿を見つめながらセミはその到着を待つのだった。

●目次

ビックフット
足元のこと
悲しい心を抱く人
黒い川にぷかり
勝手に泣く壁世界
農夫の血
勉強しよう、そして試験を受けよう
風の吹く日

●日本でのアピールポイント

鮮やかな表紙と目次だけでは、この本のイメージはつかめない。読み終えるまではどこに向かっているのかもわからない。まさに予測不可能な一冊だ。家庭の悩みの渦にいたかと思うと、突然小人の世界に連れていかれる。次の作品に同じ名前の人物が登場し、長編小説だったのかと錯覚させるが、設定はまったく異なる別の物語なのだ。しかし、関連性を想定しながら読めば、違った楽しみ方ができるのも魅力だろう。本の原題は同名の讃美歌であり、教会や聖書も登場するが、街に散在する「キム・ビョンチョルよ、聞け」という不思議な落書きに、大きなオカリナがついた建物、飛んで移動できる空の通勤経路まで、読者を飽きさせない要素は多種多様だ。難しいことを考えず、物語に身を任せると不思議な世界観に没頭できることだろう。目の前の現実から遠ざかりたいとき、「歩く小説」と評されるこの作品の中を散歩してみてはいかがだろうか。

(作成:髙橋恵美)

チョン・ギヒョン
登録者数30万人を超えるYouTubeチャンネル「ミヌムサTV」にも出演し、名の知られる編集者。2023年文学ウェブマガジン「リム」に本作収録の短編「農夫の血」を発表し、作家としての活動を開始。2025年に表題作「悲しい心を抱く人」で李箱文学賞を受賞した。