第9回「日本語で読みたい韓国の本 翻訳コンクール」受賞者決定!

K-BOOK振興会、株式会社クオンの共催で行われた、第9回「日本語で読みたい韓国の本」翻訳コンクールには、国内外から総勢119名の応募をいただきました。
ご応募いただいたみなさま、ありがとうございました。

二次審査を通過した10名の作品を審査員(星野智幸、オ・ヨンア、古川綾子、河出書房新社編集部)による厳正な最終審査を行った結果、この度次の通り、受賞者が決まりましたので発表致します。
なお、課題作「사평역(サピョン駅)」に関しては、残念ながら受賞該当者無しと決定いたしました。(文中全て敬称略)

⇒ コンクールの詳細はコチラから

【受賞者より』

「에콜(エコール)」(김멜라著)
佳作 中井 優子

受賞のお知らせを頂き、まだ信じられない気持ちでいっぱいです。韓国語はほぼ独学で、亀のペースで勉強を続けてきましたが、未熟な私が佳作を頂けたのは、ひとえに作品そのものの持つ力が大きかったように思います。悩みながら作業を進める中で、その独特の世界観を日本語で再現していく過程はとても楽しく、充実したものでした。この作品の魅力が一人でも多くの方に届けば嬉しいです。今回の受賞を励みに今後も精進してまいります。本当にありがとうございました。

 

 

*なお、惜しくも受賞には至りませんでしたが、次の方々も二次審査を通過されました。
掲載を承諾いただいた方のみ、ここに掲載をさせていただきます(五十音順)。
Kiyomi Cho、Ryoko Chang、あさか すんひ、伊賀山直樹、富澤利恵、野口真弓、持田恵子

 

【総評】
星野智幸(作家)

完成度の低い翻訳が多かったというのが、審査会での総意でした。辞書にあるとおりの訳をそのまま使ってしまうケースが多く、それぞれの言葉や文が、作品の文脈においてどのように解釈されるべきか、という読解が不足しているように思いました。喩えて言えば、一音一音を出すのに必死で、音楽にはまだなりきれていない、という感じでしょうか。
「エコール」の中井さんの訳文は、日本語としてこなれたものにしようという意欲は最も感じられました。ただ、作品全体の読解の深さにおいて、受賞作とするにはまだ不足していると審査員の意見が一致したので、佳作となりました。
受賞作なしとなった「サピョン駅」は、1980年前後の韓国社会がどんな状況にあったのか、朝鮮戦争の影や軍政の圧迫が日常生活の隅々にまで及んでいる感触を理解しないと、作品の根幹に届くことのできない作品です。今回の翻訳の多くは、民主化前の韓国社会を形作っていた歴史や背景への意識が薄いように感じました。どうしてその言葉が書かれることになったのか、言葉の生まれる土壌を知るには、知識を持つことがまず肝心ですが、その時代の小説をたくさん読むことで、その社会を自分が生きている気持ちになるくらいに身に染み込ませていくことも必要です。一朝一夕で届くことではないので、地道に努力を続けてほしいと思います。

 

【審査評】
オ・ヨンア(翻訳家)

全体を通じて、読み手が物語の世界に没頭して読み切ることがなかなか難しい回でした。「サピョン駅」では、冒頭に引用されている詩と本編がそれぞれ独立して感じられてしまう訳文が大半でした。この詩が全体に及ぼす影響を考えながら訳すと、また違った深みのある雰囲気になったと思います。「エコール」では、二人の女性のそれぞれの心理が伝わってくる書き方、韓国社会ならではの背景事情などへの配慮、著者の持つ鋭い視線が伝わってくるかもポイントになりました。
どの作品の訳出においても共通しますが、物語全体を俯瞰して見渡す視線が大切だと思います。地文や台詞には書いていなくても行間や間合い、余白から読み取ることのできる感情や心理の揺れなどをふまえると「ただ訳す」状態から抜け出せるのではないでしょうか。基本的なことですが、訳したり訳文を何度も直す前に、まず原作を訳者自身が感じ、理解し、その中に一度入り込んでしまう過程を経験してほしいと思います。

 

古川綾子(翻訳家)

両方とも特別な出来事は起こらないまま終わってしまう物語だからでしょうか、全体的に作品が伝えようとしているメッセージや世界といった核心を理解できていない印象でした。
何も起こらない物語だからこそ、語り手が立っている、そして見聞きしている世界を訳出するには、より一層の臨場感が求められます。「サピョン駅」が書かれた80年代の朝鮮半島の情勢や、「エコール」に登場する公務員試験の厳しさをリアルに表現するためのリサーチも不足しているように思えましたし、読んでいると景色が自然と目に浮かんでくるような原文との一体感も感じられませんでした。
最近の可読性の高い小説に慣れていると、自分から感触をつかみに行かなくてはならない、今回のような物語は読みにくく感じるかもしれません。多様な作品に触れる必要性を改めて感じました。

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授賞式はK-BOOKフェスティバル2026内で開催の予定です。追って詳細はお知らせいたします。
また受賞者による邦訳「エコール」は、編集作業をおこない、文芸誌『文藝』2026年秋季号(7月7日発売・河出書房新社刊)に掲載予定です。どうぞご期待ください。