●本書の概略
「年を重ねても、誰もが『大人』になれるわけではない」(17ページ)。 40代にさしかかった著者が、自分のこれまでを振り返りながら、「大人」にふさわしい心構えとは何かを模索するエッセイ。仕事やキャリア、自分にとっての「家」、食べること、尊敬する人、人づきあいなど、トピックは多岐にわたり、ひとつあたり数ページの短いエッセイで、自身の経験と考えを率直に綴っていく。これまでに出会った人、経験した出来事を振り返るなかで得た気づきを、丁寧でやわらかい言葉で描き出す一方、気まずかったり格好悪かったりするエピソードも隠さない。「成熟とは、完成に向かうことではなく、不完全さを受け入れることだ」(155ページ)。よりよく生きるとはどういうことか。その問いに明快な答えを出すのではなく、立ち止まりながら考え続ける一冊。
●目次
プロローグ
第1章 緊張の糸を手放さない
第2章 記録は私を私として覚えていてくれる
第3章 誰にでも固有の人生の重みがある
第4章 もらったものより多くを与えて生きたい
エピローグ
●日本でのアピールポイント
日本では、時代にそぐわない言動をとる中年を「老害」や「価値観がアップデートされていない」となじる風潮がある。しかし、「きちんとした大人」とは何かと改めて問われると、その答えは曖昧だ。生き方が多様化し、なんとなくみんなと同じことをしていれば安心できる時代は過去のものになった。何をもって「大人」とするか、何をもってよく生きるとするのかは、韓国でも日本でも、いま切実に問い直されているテーマだと言える。
一般的な自己啓発エッセイは、「がんばれ」と背中を押すか、「休んでいい」と立ち止まらせるかのどちらかに振れやすい。著者は、大企業のアナウンサーという安定したキャリアを手放し、YouTuberとして成功を収めた人物だが、この本で勝者の教訓を語るのではなく、仕事やキャリア、人間関係に対する悩みや葛藤を素直に綴る。その率直さが本書の一番の特長だ。
現代の日本では、働き手の変化や終身雇用のゆらぎにより、「自分はどう年を重ねていくのか」という問いが性別や年齢を超えて切実になりつつある。自分の不完全さを見つめながら、それでもよりよく生きようとする姿勢を手放さない。分かりやすい正解が求められる時代に、人生はそれほど分かりよくはないと認めるこの本は、生きることに真摯に向き合う読者にこそ響くだろう。
(作成:中尾未来)

