●本書の概略
独自の世界観と想像力を持つSF作家イ・ハジン初の小説集。
近未来、人間の欲望は科学を発達させ、その科学により地球は破滅に向かっている。半壊滅状態になった世界で奇跡を信じて行動する普通の人々を描いた物語。
「私たちが向きあう奇跡は無限だから」
気候変動により北極の氷河が溶け、高地だけが海上に出ている地球。人類のエゴによって生態系は破壊され、人類は自分たちに似せて、鋼鉄でできた新人類を創造した。厳しい基準で量産された新人類は他と争わず、目的や目標もない。ただ旧人類のそばで生き続けるだけだ。その後生命は滅亡し新人類だけが残った。旧人類の最後の課題、過去に行く方法を見つけたとき、私以外の新人類は自ら生命を停止させた。自分たちで課題を見つけるのは領域外だから。
一人残った私はついに感情を自覚した。むなしく、さびしい。孤独を知った。私は最後に作られた遺産に乗って過去に向かった。
到着したのは私が生まれる直前の時代だった。私は都市を避け衰退したある島に行った。島には動物園があり、そこでは古い制御システムの代わりに一人の老人が動物の世話をしている。老人は、人は横道にそれても結局は良い方向に向かうと信じている。私が知らない楽観。私は動物園の制御システムを改良した。これは新人類の基準外で論理的ではないし私に有益でもない。愚かなことだ。改良が終わると、システムの動力となる、無限のエネルギーを供給する私の心臓を取り出して老人に差し出す。ここの生態系は破壊されないと告げ空を見上げた。
●目次
こんなにも美しい世界に
ある人の連続性
ジオの意志
発露
最後のプレゼント
さびしい軌道の上で
漂流空間の曙光
私たちが向きあう奇跡は無限だから
作者のことば
●日本でのアピールポイント
人間は環境破壊、戦争を愚かだと知りながら繰り返し、今もそれは続いている。作品で描かれた近未来は悲惨だが、そこには現実味が感じられる。実験施設で起こった事故で時間が止まり立ち入りが禁止された区域は東日本大震災後の帰還困難区域を、ある研究所からウィルスが流出し人口が半分になってしまった世界はコロナウイルスを想起させる。
物語の中には難しい科学の用語だけでなく作家が作り出した単語もあり、人によっては読むのをやめたくなるかもしれない。でもひるまず(気にせず)に読み進めれば、8編の唯一無二のSFに出会うことができる。普通の人の友情、正義、愛の物語でもある。
(作成:新井佐季子)

