●本書の概略
「今どのような気持ちですか?どのぐらい辛かったですか?」
生きていく上で人間関係に関する問題は避けては通れないものであり、また私たちはそれらに日々悩まされ、精神を消耗し、場合によってはうつ病などの精神病に陥る厄介で重要な問題にもなりうる。そして、こうした問題に立ち向かうためにどうすれば良いのか、方法はあるのかということは人間の永遠の課題であるのかもしれない。
実際に近年の韓国では、3人に1人がうつ病を患っていると言われており、自殺率も世界でワーストレベルにある。この本の著者である精神科医のチョン・ヘシン氏は、医者はあらゆる精神の不調に対して、ただ「うつ病」という診断名を与え、薬を処方しさえすれば良いのか、それは根本的な解決になっているのか? と現代の治療に疑問を投げかけている。本当に効果的な治療法とは何なのか、チョン氏は一例として「心理的CPR[心肺蘇生法]」を紹介している。
この本でもっとも重要なキーワードは「共感」、そして前述の「心理的CPR」であろう。筆者はこの「心理的CPR」が「人を生かす力となる」と述べている。人間の行動や発言にはそこに至るまでの理由・原因が必ず存在するはずだ。だから相手の行動や発言に対してもその理由・原因が何であるかを理解することが大切で、それなしに相手に「共感」することはできない。私たちは普段、自分自身の物差しで他人を測り、判断しがちである。今、相手が心から求めていることは何か、考えていることは何か。相手への「共感」が「心理的PCR」として「人を生かす力」となり得るのだ。
●目次
1.なぜ私たちは辛いのか
2.心理的CPR -今私たちにとって切実なもの
3.共感 -手っ取り早く、そして適格に心を動かす力
4.境界を構築する -私と相手を同時に護ることこそが共感だ
5.共感というハードルを越えること -本当の意味での治癒を妨げる障害物
6.共感の実践
●日本でのアピールポイント
心理学というと専門的で小難しいものを想像する方も多いと思うが、本書は家族や友人間で生じた人間関係の問題を実例として取り上げながらわかりやすく説明をしてくれており、専門用語もほとんど無いためとても読み易い。
SNSなどインターネット上でのコミュニケーションの普及などによる対人関係の希薄化は、韓国に限らず日本でも問題視されている。コミュニケーション能力が劣っている人を指す「コミュ障」という造語が登場するなど、現代社会において対人関係に悩む人は多い。さらに、このコロナ禍で人と直接コミュニケーションをとる機会が激減したことで、人々の問題意識とその重要性が高まっている今だからこそ読みたい1冊だ。私たちが対人関係において一番大切にしなければいけないことは、ただ相手の話を聞くことだけではなく、相手に正しく「共感」をすることで相手を理解し寄り添うことなのだと気付かされるだろう。
作成:上坂さつき
追記:2021年5月飛鳥新社より『あなたは正しい』(羅 一慶訳)で刊行されました