●本書の概略
第24回チャンビ「良い子どもの本」原稿公募童話部門で大賞を受賞した作品。主人公は、さすらいの黒猫カムニャン。名前の「カム」は韓国語で「黒」だから「黒ニャン」だ。さらに単語「カムニャン」には「自分で何かをなしとげる力」という意味がある。二本足で立ち歩き、人とも犬とも話せる。猫なのに意外と力持ちでダンスも上手だ。すました顔をしているが、よく気が利くし礼儀正しい。そして何よりも心優しい。そんな黒猫カムニャンがマンションで起こる様々な問題を、機転を利かせて解決していく。
本書はシリーズ化を前提に第1巻として発刊された。キム・ジェヒが描く絵も楽しい。巻末の絵は次巻が楽しみになる仕掛けになっている。この本を手にした子どもたちは、カムニャンにまた会いたいと思うことだろう。自分で読むなら小学校低学年から。幼児への読み聞かせにもいい。
●目次
おじゃまします
お母さんが帰って来るまで
猫といっしょにダンスを
宅配が来ました
猫の警備員カムニャンです
●日本でのアピールポイント
何といっても魅力的なのは、カムニャンの愛すべきキャラクターだ。ちょっと生意気なのに、静かにゴロリと困っている人に寄り添う。猫だから本当は寝ていたいのに、子どもたちと思い切り遊んでしまう。読み終わるとなんだか温かで前向きな気持ちになれる。小学生以上向けの童話だが、ほのぼのと楽しいストーリーは大人でも楽しめる。
日本でこれまで出版された韓国童話には見られない、現代のマンションが舞台となっている点が新しい。登場する子どもたちが置かれている状況も、韓国の今どきの世相を反映している。
そんな子どもたちとカムニャンとの温かな交流は、人と人とのかかわりが希薄になっていると言われる今、日本の子どもたちの共感を得るに違いない。巻末の「カムニャンのことば」の中には、人生(猫生)を前向きに生きようとするカムニャン(作者)のメッセージが込められている。
作成: 村山 哲也