●本書の概略
韓国で、仏教の教えを現代人にわかりやすく伝える「文僧」と呼ばれる僧侶のひとり、ソンジョン僧侶による著書。副題である「今あなたの目の前にある幸せに目を向けさせてくれる慧眼のアドバイス」の通り、日々の生活において不運や不幸ではなく、本来目の前にあるはずの幸せに目を向けるよう、仏教の視点から説いてくれる。
現役の僧侶による著作であるが、仏教特有の難解な概念は用いられず、善き人生を送る秘訣は、「ただひたすら、身近な幸せや家族や友人、恋人といった周囲のひとたちに感謝し、愛を捧げ、誠実に生きること」であると、人間関係や自然の摂理を例に挙げながら読者に優しく語りかけるような文体で著わしている。
「山はそこにあるから見えるのではありません、あなたがそこに目を向けるから見えるのです。そのように、悪いことではなく良いものに目を向けなさい」といった、幸せに目を向けるための助言に満ちた一章、自然が移り変わるように人生も流れ行くものであると説く二章、人生における誠実さや真心の重要性についての三章…と続き、とかく落胆・失意・暴力といった暗い話も多い現代社会ではあるがそれ以上にいいことの方が多く、そこに生きられる幸せについてを語る終章まで、ところどころに仏教用語やブッダとその弟子のエピソードをちりばめながら導いてくれる。
●目次
1. 今この瞬間、目の前にいる1番素敵な自分に会いましょう
2. 人生は毎秒、新しいことの始まりです
3. 美しい人生は、誠実さの中にあります
4. あなたは大切な縁をつなげるひとです
5. 心の平安を身につけたときから、今が永遠になります
6. この世に生まれたあなたは幸せものです
●日本でのアピールポイント
日本でも歎異抄やブッダを取り上げた仏教関係の作品が注目されることはあるが、僧侶本人による生き方の指南書は多くない。一方、韓国ではそのような本は珍しくなく、最近は、BTSのメンバーも読んだ作品としても関心を集めた『誰よりも先にあなたが幸せになりなさい』(ポムリュン著・朴慶姫訳:2021年、マガジンハウス)の邦訳が刊行されている。仏教は日本でも身近な宗教であることには変わりはない。仏教の教えに触れるに際し、仏教とはなにか、や深遠な仏教観からではなく、まずは身近なことがらについて僧侶自身が平易な言葉で説く本に触れたい読者層の人気を得られるように思う。
(作成:飯田浩子)