私たちは冗談(じゃな)い(우리는 농담이(아니)야)

原題
우리는 농담이(아니)야
著者
イ・ウンヨン
出版日
2023年04月26日
発行元
ジェチョルソ
ISBN
979118834362103810
ページ数
216ページ
定価
17,000ウォン
分野
芸術(実用)

●本書の概略

本書は、2021年に20代の若さでこの世を去った劇作家イ・ウンヨンが、トランスジェンダーとして生きた自らの切実な経験と、社会に向けた鋭くも温かい眼差しを詰め込んだ遺稿戯曲集です。第57回百想芸術大賞演劇部門で「百想演劇賞」を受賞した表題作を含む、韓国演劇界の新たな地平を切り拓いた作品群が収められています。

「トランスジェンダーの人生は、誰かにとっての『冗談』なのだろうか?」 本書の核となる戯曲『私たちは冗談(じゃな)い』は、あるトランスジェンダー男性の突然の死と、その葬儀を巡る数日間の物語です。故人が生前望んでいた姿ではなく、遺族によって「女性」として葬られようとする不条理。その傍らで、残された仲間たちが交わすユーモアと悲しみが混ざり合う会話は、読者に「存在の重み」を強く突きつけます。

収録された各作品は、当事者の苦悩を単なる悲劇として消費することを拒みます。タイトルの「(じゃな)い」という括弧には、社会から冗談のように扱われる不条理への静かな怒りと、それでも笑い飛ばして生き抜こうとする強靭な意志が込められています。制度の狭間でかき消されていく個人の尊厳を問い直し、形骸化した性別制度を超えた「個」としての叫びを描いた本作は、マイノリティ文学の枠を越え、何者かになろうともがくすべての人々の魂を揺さぶる一冊です。

●目次

序文
世界の初めての誕生日
私たちはそれを探して
お母さん、お母さん
秋の客

●日本でのアピールポイント

現在、日本の出版市場では『82年生まれ、キム・ジヨン』を筆頭に、韓国の社会問題を背景とした文学が広く受け入れられています。特にパク・サンヨン『大都会の愛し方』など、LGBTQ+をテーマにした作品がヒットしており、演劇界でも「韓国現代戯曲」の上演が相次いでいます。本作はその決定打となる一冊であり、文学・演劇両面からのアプローチが可能です。

本作は「トランスジェンダー」という重いテーマを扱いながらも、その文体は非常に軽快で、ユーモアに溢れています。これは、若者の孤独や生きづらさを独自の言語感覚で描く日本の作家、本谷有希子や三浦直之、あるいは映画『彼らが本気で編むときは、』のような、繊細かつポップな感性に通じるものがあります。重苦しい告発ではなく、日常の延長線上にある対話として描かれている点が、日本の読者にも受け入れられやすいはずです。

身近な人の死を契機に、隠されていた真実や愛情が浮き彫りになる構成は、日本の読者にも馴染み深いドラマチックな展開です。単なる権利主張ではなく、一人の人間がどのように愛され、どのように記憶されるべきかという尊厳の問題を描いているため、特定の層だけでなく幅広い読者に深い感動と内省を促します。

(作成:横田明)

イ・ウンヨン 1993年生まれ。劇作家、活動家。劇団「ムン(Moon)」のメンバーとして活動。トランスジェンダー当事者としてのアイデンティティを基盤に、社会の周辺に追いやられた人々の声を演劇の言葉に変えて発信し続けた。2021年2月、惜しまれつつ急逝。死後、本作『私たちは冗談(じゃな)い』が第57回百想芸術大賞「百想演劇賞」を受賞し、韓国演劇界においてその文学的価値が再評価された。