●本書の概略
「春、多様なナムルの季節。ナムルの材料である野草、その中でも特に蓬は遠い昔を思い出させてくれる。週末に家族でナムルを取りに行って蛇やカエルに遭遇したこと、両親がどうやってナムルを摘めばいいのか詳しく教えてくれたこと、持ちかえった蓬で蓬餅を作って食べたこと。春は短い、だから春になると焦りだす。炒めようか、茹でようか、漬けようか。そうやって春が過ぎ去ってしまうまで私の台所はナムル研究室になる」
(p022慌ただしい春)
フードデザインスタジオ「ホームグラウンド」を運営し、様々なスタイルの食を探求している料理研究家アン・アラの散文集。食にまつわるエピソードをスマートな文章と心のこもったレシピと共に紹介している。それらは特別ではない日常をあたたかく描き出しており、「食べる」という行為が、いかに大切なものなのかということを教えてくれる。また、日々の食事に少しだけ意識を向けるだけで、私たちの暮らしがどれほど豊かになるかを語っている。「食事は最も手軽に見つけられる幸せ」なのだ。
「私には大阪から来たエイコという友達がいる。こうやって人助けしながら生きていけるんだな!こんな生活の中でもこんな料理が作れるんだな!人々はこんなにもエイコの料理が好きなんだな!そんな感想を抱かせるエイコに初めて会ったのは、今はなき「スカラ」というカフェ。2回目に会ったのは月夜食卓。エイコが作るおまかせ料理を食べられる場所。エイコの料理は、エイコの感情や考えなどが一堂にとけ込んで成分的な健康ではない、精神的な無害に近いもの。おでん、ビーフシチュー、スジカレー、ポテトサラダ……エイコの料理を国籍でわけるなら、その国は<エイコランド>である」
(p181私の友だち、エイコ)
●目次
プロローグ
仕事の味:慌ただしい春/犬と私/不安をなくす方法/キムパブ人生/汁はいくらでも/他人に食事をまか せる/塊りに戻る時間/仕事の味/家事、私たちが生きる方法/忙しい顔/市場から
チェックリスト
生きていく気力:故郷のご飯/料理を作ってくれるお姉さん達/新鮮な風が吹いてきたら/精霊大移動/ 立派なお稲荷さん/私の友だち、エイコ/麺激戦地/桃お姉さん/餃子餃子餃子/一緒に食事
エピローグ
●日本でのアピールポイント
プロローグから始まり「仕事の味」「生きていく気力」ではそれぞれのテーマに合わせたエピソードとレシピが一緒に紹介されている。料理そのものよりもエピソードがメインなので、料理に詳しくない人でも簡単に読めるだろう。むしろ共感できるエピソードが多く、文章も押しつけがましくないので読みやすい。
読み終わってすぐに頭に浮かんだことは「今日は何を食べようか」であり、「誰と食べようか」である。そして無性に料理がしたくなる。なぜなら旬の食材を楽しみ、家族や知人の健康を願いながら丁寧に作る情景が描かれているからである。また読み進めていくと、凝った料理でなくても、身近な食材を使って心を込めて作った食事がどれほど心を満たしてくれるのかということに改めて気づかされる。それは、日本人にも共通するどこか懐かしくて温かい家庭の味、食卓の風景である。
「最近、きちんとした食事をとっていないな」「心がみたされていないな」と感じるときにおすすめしたい本である。何気ない日常の中にかけがえのない幸せが隠されていることに気づかされるだろう。
(作成:清水綾子)

