菜食主義者の養豚法(돼지를 키운 채식주의자)

原題
돼지를 키운 채식주의자
著者
イ・ドンホ
出版日
2021年6月1日
発行元
チャンビ
ISBN
9788936486778
ページ数
190頁
定価
15,000ウォン
分野
社会

●本書の概略

現代社会の肉食の在り方に問題を提起したのが『菜食主義者の養豚法』(チャンビ)である。本書はイ・ドンホ氏が自ら豚を飼育する過程で感じたことを伝えるエッセイ集で、第8回ブランチブックプロジェクト大賞を受賞した。著者は元兵士であり旅行作家である。28歳で農村に移住したが、家畜飼育の劣悪さと、業界の厳しい現実に衝撃を受けて菜食を始めた。
そして人間が動物の生を犠牲にして生きることに疑問を抱き、農業学校から黒豚3匹を譲り受けた。自然に近い環境で豚を育てると、豚が実に愛おしい存在であることに気づいたのである。
その一方で豚を屠殺する場面が出てくる。著者が金槌を持って自ら屠殺することにした理由は、生命に対する責任感と礼儀であった。自ら手を下すことで、命の重さを知るべきだったからだと回想している。
本書で訴えているのは、私たちが食べている食肉の裏面を直視することだ。動物が感じる苦しみを感じ、人間が動物から命をいただくことで生きていることを実感することにある。親しみ易いイラストを添えて養豚の在り方と問題点を分かりやすく紹介している。

●目次

プロローグ  肉食主義者も助け出せるか
1  部   工場と農場の間
2  部   生命と肉の間
エピローグ  私が暮らす村 平村

●日本でのアピールポイント

現代日本においても、金で精肉を買うのは当たり前の状況である。しかし豚や牛、鶏が命を提供してくれるだけでなく、他人が代わりに育てて処理し、自分はそれを享受しているだけという認識は薄いのではないか。
肉食の現実を見つめ直すことによって分かることがある。動物が生を提供してくれることによって自分が生かされており、さらには動物と直接向き合っている人がいるということである。その事実によって生命への感謝の重要性を認識させてくれる。
動物への感謝の視座を広げると、社会における自己存在の問題にも行き着く。自分が動物の生のおかげで生かされていることの認識は感謝の心につながる。自分が様々な恩恵を受けながら生きていることを理解し、その恩に感謝することは人類の幸福の原点でもある。
また悲しいことに現代日本でも韓国でも自殺者は相当な数にのぼる。理由はいろいろだが、命に対する感謝の心をもつことは自己の在り方の受容につながり、さらに周囲や社会への配慮にもつながる。生命の意義を考える上でも、本書は多くの人におすすめしたい。
類似の問題を扱った日本の作品として、黒田恭史氏著『豚のPちゃんと32人の小学生 命の授業900日』(ミネルヴァ書房 2003年)がある。これは学校現場での豚飼育を題材に命の尊さを説いたもので、『豚がいた教室』(前田哲監督 2008年)として映画化されている。あわせて見るとより興味深いであろう。

(作成:横田 明)

イ・ドンホ
2014年に帰村。農村の養豚場での劣悪な環境を見て、菜食を決心する。有機ヨーグルトの牧場で仕事しながら、動物を育てて食べることに苦悩し、豚と人間の友好的関係を目指す。著書は他に『青春の旅行、風吹く瞬間』(セナブックス 2020年)がある。