●本書の概略
「あなたにとって光州はどんな場所ですか?」
光州に縁もゆかりもない1人のコピーライターとアートディレクターが、偶然に映画『タクシー運転手』(2017)を観たことから始まった「光州のリブランディング」。2人は20代~30代の若者にインタビューした光州についての内容を文章投稿アプリに掲載するプロジェクトを立ち上げた。しかし始めて間もなく、このプロジェクトにそもそも「正解」などないことに気づく。それでも今まで語られてきた過去の凄惨な事件としての光州だけでなく、20~30代の若者が抱く光州への率直な思いを聞き、光州のこれからを考えていくことで、光州の新たな価値や意味を見出そうとした。なぜなら、同世代でこれまでしてこなかった話がしたかったから、埋もれてきた声が聞きたかったから。
光州を通して、韓国の若者の多様でリアルな「今」の考えと思いに触れることができる、10のインタビューからなる一冊。
●目次
プロローグ:光州に全く縁のない私たちだけど
インタビュー1:おにぎりを握った日 光州の小学校教師_ソヒ、ミンジ
インタビュー2:真実はお金になる ベルリンの歴史学専攻生_ジナ
インタビュー3:光州とカリフォルニア 都市研究科_ジュニョン
インタビュー4:鏡よ、鏡、私はちゃんと生きているよね?
心の広い光州の青年_ググルジョン
インタビュー5:光州人とは結婚するなって? 言うべきことは言う人_PSK
インタビュー6:光州男子、ソウル女子
フェミニズム書店「タルリ、ポム」の店長_スンリ、ソヨン
インタビュー7:時代遅れな模範生にならないで
バラエティープロデューサー5年目_チェリ
インタビュー8:ともに生きていくみんなへ 覇気のある新米記者_キョン
インタビュー9:光州と光化門の相関関係 97年生まれ義務警察官_ジョン
インタビュー10:距離をおいて疑う 芸術する会社員_チョルソク
エピローグ:今、( )を考える
●日本でのアピールポイント
本書が作られるきっかけとなった映画『タクシー運転手 約束は海を越えて』(2018年日本公開)、また、小説『少年が来る』(クオン、ハン・ガン著、井手俊作訳、2016年)などを通して、日本でも本書のテーマである1980年の5・18光州民主化運動に興味を持った人は少なくないはずだ。韓国の書籍レビューでは20代~50代という幅広い年代から性別問わず評価を得ていることから、日本でも年齢や性別を問わず、5.18光州民主化運動に関心のある読者層に新しい風として受け入れられそうだ。韓国で「ミレニアル世代」といわれる、2000年代に成人となった世代である著者とインタビュイーたちの会話がテンポよく進んでいくので、普段本をあまり読まない人でも手に取りやすく、気軽に楽しめるだろう。
5・18民主化運動からちょうど40年となる2020年に、当事者ではない世代の若者たちが、光州をリブランディングしようという新たな試みをした本書。セウォル号のイエローリボンのように、今後の光州のアイコンに、と考案したおにぎりのイラストもポップで親しみやすい印象を与える。これをきっかけに、人々の光州への認識は、また違う段階に進むかもしれないと思わせる一冊だ。
作成:松原佳澄