本書の概略
高校生、大学生、親たちを対象にした2017年2月の冬休み特別講座「大学の使用説明書」の講演内容である。大学で学び、市民社会運動に参加した自らの経験をふまえ、大学と市民が果たすべき役割や大学の現状と問題点を解説し、技術が急激に発展する今こそすべての人々に人文学が必要だと強く訴えかける。
1.市民、大学、責任感
現実を客観的に理解し、危機を認識する能力を育てることは市民の基本的な責任だ。朴槿恵スキャンダルの時には1千万人以上が集まり、スローガンが「下野」「退陣」「弾劾」と変化しながら一定の国民的な合意を形成していった。
2.大学は今どんな姿なのか
大学は、自治権の喪失と画一化、知的緊張の低下、教養教育の不足、高学費と公共性の不在という4つの危機に直面している。西欧民主国家の近代化には産業化プラスアルファとして「市民性」を育てて守ろうとする市民精神があったが、韓国にはそれが足りない。大学の知識人は社会にもっと問題提起するべきだ。
3.人文学は巨大な真理探究プロジェクト
市民が歴史、芸術、文化などの多様な分野で知識を得て教養人になることで、人間の尊重や解放に対する問題意識が作られる。新技術を生かすためにも人文学的洞察力は欠かせないのに、大学の基礎教養科目から人文学がどんどん減っている。人間と科学技術はどう共存するべきかという根源的な課題に直面した第4次産業革命の今、SNS時代の集団知性を生みだすために私たちは議論し、合意点を見つけ、ともに行動する「連帯の政治学」を作り出すべきだ。大学はその役目を果たし、人文学がコミュニケーションのコンテンツになる。人文学を通して人生の本質を熟考し、危機を認識し、解決方法を模索し、それを実践に移す。多くの市民が人文学という真理探究プロジェクトに参加したら、私たちの未来はより明るくなるだろう。
目次
プロローグ
市民、大学、責任感
大学は今どんな姿なのか
人文学は巨大な真理探究プロジェクト
Q&A
参考文献
日本でのアピールポイント
ハイテク技術の発達で人々の生活は便利で豊かになったが、国家対立、格差拡大、環境破壊などの問題が深刻化している。最終的な問題の解決方法は技術の中に求めるとしても、それを見つけ出すのは人間であり、そこには人文学的な思考方法や見方が必須だと語る筆者の主張には説得力がある。この考え方は韓国にとどまらず、人類に共通して当てはまる真実だ。学生だけでなく社会人にも、今だからこそ人文学を学ぶ大切さを改めて気づかせてくれる。
作成:伊賀山直樹