本書の概略
高校生の友情と心の成長を描く青春小説。ピアノコンクールで良い成績をおさめ、将来を有望視されていたセミンは、最近ピアノを弾こうとすると耳鳴りが始まり、演奏を続けることができなくなった。両親の別居に心を痛めるジウは、大学受験のために熱心に勉強していたが、目の前に得体の知れない光が現れるようになり、勉強に集中できずにいる。家族を失ったユリンは、アルバイトで生計を立てて一人で生活しながら、野良猫を保護して世話をしている。
彼らは冬休みに参加した『星座音楽キャンプ』で出会い、少しずつ心を開きながら親しくなっていく。まるで星と星を繋げて星座が作られるように、彼らも見えない糸で繋がっていく。それぞれ悩みや不安を抱える主人公たちは、お互いの存在が癒しにもなり、力にもなっていた。そして、少しずつ前へと進み始める。
目次
- セミンのこと
- ジウのこと
- ピアノが弾けなかったら
- 心が向かう場所
- 星座音楽キャンプ
- 星に書いた手紙
- こんな悩みはぜいたくなのか
- ユリンの手紙
- 古いラジオがある部屋
- 破れた夢
- メールが届きました
- 嵐の中に一人取り残された気分
- 真夜中の路地旅行
- 友達になれるかな
- いくつかの三角形
- 再会した私たち
- ユリンのこと
- 星をつなぐ時間
- 本物の星を見るためには
- 行くべき場所
- 不吉な予感
- 星がきらめく理由
- 沈黙も言葉になるということを
- 宇宙を飛ぶピアノ
- 89番目の星座
日本でのアピールポイント
将来のこと、家族や友人のこと、10代の若者にはこのような悩みや不安はつきものである。この作品の主人公たちも将来を不安に思ったり、親からの期待をプレッシャーに感じてしまったり、家族がバラバラになっていくことに心を痛めたりする。そんな悩みをひとりで抱え込み苦しんでいた3人が出会い、距離が縮まって何でも話せる友達となっていくうちに、彼らは少しずつ前向きな気持ちになっていく。SNSで繋がっているだけの友達ではなく、実際に会って助け合ったり励まし合ったりできる友達の大切さと偉大さに、改めて気づかされる作品である。ラストはすべての悩みが解決するわけではないが、そこも現実的で好感が持てる。また、悩みを抱える高校生の姿を描いた物語ではあるが、作品全体に登場するピアノ音楽や星が、青春時代の美しさや輝きを表現している。
日本の作品では、同じように挫折を経験したり、コンプレックスを抱える高校生たちが、友情を通して前向きになっていくという点で、宮下奈都の初期の作品『よろこびの歌』が類書と言えるだろう。
作成:山口裕美子