英国における『菜食主義者』の評価とは

 5月17日、ハン・ガン作家の小説『菜食主義者』がアジア初のブッカー国際賞を受賞したという嬉しいニュースが飛び込んできました。155の候補作品の中から、その頂点にふさわしいと選定された『菜食主義者』に、アジアの国々からはもちろんのこと、世界中から称賛の声があがりました。その中から今回は、英国における『菜食主義者』の評価、講評をご紹介いたします。
 ブッカー賞の審査委員長ボイド・トンキン氏は、『菜食主義者』を「強烈に記憶に残る、衝撃的かつ独創的な小説で、ブッカー国際賞受賞に十分に値する作品である」「まったくもって奇抜な物語である。ともすれば稚拙なホラーやメロドラマ、仰々しい寓話というジャンルに陥りかねないストーリーが、驚くべき平静と方向性、抑制力をもって描かれている」と称賛しました。
 さらに作品を「簡潔な文体で読者の心をかき乱しながらも、自分を家庭や家族、社会に束縛する、あらゆるしきたりと思考を拒絶した平凡な女性の姿を描き出した、美しいストーリー」と紹介した上で、「主人公が自分自身に対して抱いた拒絶感、さらには身近な人々に対して抱くことになった強烈な拒絶感を、叙情的に痛々しく描き出す。簡潔に、かつ繊細に、読む者の心を大いに悩ませる本作品は、読者の心に長く残るだろう」と講評しています。
 また英国の各雑誌、紙上においても「ショッキングなほどに斬新な小説」「奇抜で悲しくも美しい、抗いがたい物語」「圧倒的に奇抜、また官能的でもあり、裏切りと変貌、社会的タブーを描いた物語。とにかく読んでみるべき」「非常に陰鬱な雰囲気、絶え間なく漂う恐怖感。しかし物語は確実に読者の心をつかむ」など、絶賛の声が多く寄せられています。
 『菜食主義者』を英訳したデボラ・スミスさんは28歳の新鋭翻訳家です。21歳で韓国語の勉強を始め、非営利翻訳出版社を設立、今年1月には、ハン・ガン作家の『소년이 온다(少年が来る)』も翻訳出版しています(邦訳版も2017年春の出版を予定しています)。
 『菜食主義者』は昨年の段階ですでに『New Statesman』(英国雑誌)の「今年の本」として紹介されて話題になり、ブッカー国際賞受賞後には、AmazonUKで『菜食主義者』『少年が来る』が品切れになるほどです。
 世界最大のリサーチ会社と言われるNielsenの子会社Nielsen Book社が行った調査によると、英国内における韓国書籍(小説)の売り上げはこの15年で急増し、人気も急上昇しています。
 審査委員長ボイド・トンキン氏も「韓国には数多くの優れた作家と勢いのある文学界、そして揺るぎない小説文化が存在する。それらがさらに我が国に反映されるようになれば、実にすばらしい結果が得られるだろう」と韓国小説を高く評価しています。

 韓国文学が世界に向けて大きな一歩を踏み出したことは、間違いないようです。

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(左:英訳版 『菜食主義者』 右:英訳版 『少年が来る』)