青瓦台の人びと――見えない所で青瓦台を支える人びとの話(청와대 사람들)

原題
청와대 사람들
著者
カン・スンジ
出版日
2025年7月9日
発行元
ページ2ブックス(Page2 Books)
ISBN
9791169851473
ページ数
213頁
定価
16,800ウォン
分野
エッセイ

●本書の概略

本書は青瓦台と呼ばれる韓国の大統領官邸で7年勤務したカン・スンジが書いたエッセイである。日頃からメモを取ることを習慣としている著者が、青瓦台で働く間に記録した1300件ものメモをもとに、普段は目にすることのできない青瓦台の人びとを描き出している。

1部では、青瓦台の内部の隠された日常の風景を覗き見ることができる。
出勤記録は単純な記録ではなく「誰であるか」を厳重に確認する行為。収蔵庫を改造した事務室には7つの机と5つの椅子、はがれた壁紙に小さな窓しかなく、古くて狭い。業務用に渡された携帯電話は2Gというアナログさ。仕事をこなしているうちに一日の楽しみである昼食になる。食堂では天気やニュースよりも早く季節の移ろいを知ることが出来た。テレビのニュースに出ている人がすぐ目の前にいたりもする。大統領が海外訪問時の朝食は、非公式の特食であるラーメンだった。青瓦台で働く人びとは表には出てこないが、絶対に必要な人びとである。青瓦台の入り口を守る101警備団、温室の植物を管理する人、毎日池の鯉を数える人、大統領の写真だけをとるカメラマン、国旗にアイロンをかける人、絵の配置に命を懸ける人。そうした人びととすれ違い、その横顔を目にし、彼らの存在がいかに大切でありがたいものなのかに気づく。

2部では、青瓦台が一般公開された瞬間に変わったものと変わらないものを「残されたもの」の視線を通じて描いている。
2022年5月10日午前7時、初めての観覧客が入場した。「ようこそ」と書かれたフォトゾーンができ、昨日まで出入り禁止だった部屋が公開され、たった一日で全く違う姿に変わってしまった。私にとって青瓦台は職場であり、仕事、同僚がいてこそ稼働する。だが食堂も閉鎖されてしまった。それはつまり「働く人のための空間ではない」ことを意味した。人、風景、秩序、役割……何もかもが同時に変わり、残された私たちは動じまいと変化に抗っていたが、やがて心が折れてしまう。心理カウンセラーの「あなたは青瓦台ではありません。変わったのは青瓦台で、あなたではありません」という言葉からその喪失が窺える。一方で青瓦台に変わらず残った物、青瓦台を守ってきた物がある。地下倉庫で見つけた30年物の共有傘や捨てられなかった手紙、公務員のホワイトボード、そして大統領が過ごす部屋の家具たち。政権が変わってもその場に居続ける人びとや家具のように青瓦台を支え続けてきた存在がある。青瓦台を支えている人びとのように、それらは青瓦台に残り新たな主人を静かに待っている。

●目次

1部
1章 青瓦台に出勤します
2章 青瓦台の人びと
3章 昼食がくる、青瓦台にも
4章 青瓦台職員の喜びと悲しみ
2部
5章 開かれた青瓦台、残された人びと
6章 青瓦台を守ってきたもの
エピローグ 記録は自ら書かれる場所にやってくる

●日本でのアピールポイント

全ては「誰かのおかげ」で成り立っている。国、会社や学校、家庭に至るまで、全ては平凡な人びとによって支えられている。そして、あなたも私も誰かの支えになっている、そんな当たり前のことを気づかせてくれるエッセイである。「青瓦台の人びと」というと特別に聞こえるが、彼らは自分の職場に誇りをもって働く平凡な人びとだ。青瓦台を権力の象徴ではなく「職場」として見つめ、そこで働く人びとに敬意をもって優しい眼差しとリズムのある文章で描き出している。リズムのある文章はとても読みやすく飽きずに最後まで読める。
大統領への9時の報告のために8時20分の会議があり、その準備のために7時半に会議がある。誰かの9時は他の誰かの8時であり7時である。誰も注目しない場所で、誰かのために均等を合わせ、青瓦台を支えている人びと。それは、青瓦台に限ったことではない。全ての組織を考えてみて欲しい。今、あなたが何の支障もなく過ごせているのは、均等を合わせてくれる人びとのおかげではないだろうか。青瓦台という巨大なシステムを超えてあらゆる組織や社会の縮図を描き出している本書は、全ての人びとに感謝と誇りを与えてくれる。本書を読めば、きっとあなたの身近にいる「誰か」の顔が浮かんでくるはずだ。

(作成:清水綾子)

カン・スンジ
美術を専攻、絵画科学士、修士。 国立現代美術館にて勤務経験があり、2019年から青瓦台で働いている。 絵を見るように青瓦台を読み、体が先に動いた瞬間を記録してきた。