7年の夜

原題
7년의 밤
出版日
2011年4月6日
発行元
ウネンナム(은행나무)
ISBN-13
9788956604992
頁数
523
判型
A5

今年、韓国で公開が楽しみな映画のひとつに「7年の夜」があります。『日本語で読みたい韓国の本-おすすめ50選』第3回に掲載したベストセラー作家チョン・ユジュンの『7年の夜』を映画化したもです。作品の最初から最後まで緊迫感と迫力に満ちたミステリー小説『7年の夜』を紹介します。

●概略

強烈的でスケールの大きい話を書くことで名を知られているベストセラー作家、チョン・ユジュンによるミステリー小説。 著者の持ち味である、存在感のある登場人物たちとクールで緻密な描写によって、霧の深い湖を背景に神秘的で力強いストーリーが繰り広げられる。深海から水面へと浮かび上がる潜水夫の激しく脈打つ心臓のように息詰まる読後感は、読む者にカタルシスを与えてくれる。 販売部数30万部以上を記録するなど人気を博した本書は、英語、フランス語、ドイツ語にも翻訳され、海外でも注目されている。
映画『王になった男』のチュ・チャンミン監督、俳優リュ・スンリョンとチャン・ドンゴンによるダブル主演で映画化され、ヒットが期待されている。

●あらすじ

7年前のある晩、湖のダムで少女を殺害して凶悪な殺人犯となってしまった父親と、その息子であることが世間に公表され、親戚にさえ見捨てられてしまった僕。事件が起 きた7年前の夜と現在を行き来しつつ、事件の真相を探っていく。父親は本当に「殺人鬼」だったのか。だれが僕の生活を執拗に妨害するのか。霧の深い湖を舞 台に、娘の復讐を夢見る男と僕たちの対決が始まる。事件の真相解明と悲劇に満ちた父親の生涯を通して、僕は父親との絆を回復していく。

●試訳

そこに捨てられる前のことを覚えている。僕は眠りながら異常な気配を感じ、目を開けると制服の男たちに口をふさがれ、予防注射を打たれたように腕がちくりとしたかと思うと気を失った。どれほど時間が過ぎただろうか、ある声が僕を目覚めさせた。 「ムクゲノハナガサキマシタ」、ほっそりとしたふくらはぎが幻影のように視野を通り過ぎた。ぽんぽんと跳ねる素足の残影が残った。その声が眠りの磁場から僕を引き上げてくれた。 学校の運動場ほどの円形の空地を背の高い檜が取り囲んでいた。僕の正面には高い塔があり、そのてっぺんでサーチライトが回っていた。遠くまで届く白い光が時計回りに動いて空地を照らしてくれるので、僕は周囲の風景と自分の位置を確認することができた。(中略)

「ムクゲノハナガサキマシタ」。 もう一度ゲームが始まった。風景にまた変化があった。木々が遠くに下がったようでさっきより低く見えた。腰まで上がってきた水がお尻の周りでちゃぷちゃぷと揺れた。オニは9時の方向に向かって体を飛ばした。僕は水をかき分け動くひそかな気配を感じた。すぐに波紋の間に鮫のひれのように立つ白い額が見えた。水面の下に二つの目が隠れていた。(461~462頁)

●日本でのアピールポイント

発売3週間でベストセラーになり、韓国小説の新たな地平を開いたという評価を受けたチョン・ユジョンの長編サスペンス・ミステリー。すべての場面が印象的で、映画を見ているかのような緊張感と迫力が伝わってくる。多くの映画監督が映像化を望み、出版直後に映画化が決まった。原作使用料もほぼ最高レベルだったと言われている。
「一人の男は娘の復讐を夢見て、もう一人の男は息子の命を守ろうとする」サスペンスが、「セリョン湖とそのダム」という少し異質な空間で繰り広げられる本書は、ジャンル的性向を持った作品として韓国の評論家の賛辞を受けるとともに、商業面でも大きな成功を収めた数少ない作品のひとつだ。

著者:チョン・ユジョン(정유정)

1966年全羅南道出身。看護大学を卒業し、看護師として働いたという異色の経歴を持つ。今韓国で最も新作が待ち遠しい作家と言われている。 2000年「11歳のジョンウニ」でデビュー。2007年「私の人生のスプリング・キャンプ」で賞金5000万ウォンの第1回世界青少年文学賞を、2009年には「俺の心臓を撃て」(イ・ミンギ、ヨ・ジング主演で映画化。第28回東京国際映画祭上映作品)で賞金1億ウォンの第5回世界文学賞を受賞した。その後2年間を費やして執筆されたのが本書『7年の夜』である。2013年には、ソウル近郊の都市を舞台にしたバイオサスペンス小説『28』も刊行し、ベストセラーを記録している。