広場その後 ― ヘイト、格差、世代論を超えて(광장 이후: 혐오, 양극화, 세대론을 넘어)

原題
광장 이후: 혐오, 양극화, 세대론을 넘어
著者
シン・ジヌク/イ・ジェジョン/ヤン・スンフン/イ・スンユン
出版日
2025年5月26日
発行元
文学トンネ
ISBN
9791141610333
ページ数
347ページ
定価
17,500ウォン
分野
人文

●本書の概要

2024年12月3日、尹錫悦大統領(当時)が突如、非常戒厳令を宣言した。
これは1987年の民主化以降、初めての事態であり、韓国の民主主義を根底から揺るがすものだった。国会による解除決議を経て、翌4日に非常戒厳令は撤回されたが、その後、市民たちは尹大統領の弾劾を求めてソウル・光化門をはじめ各地の「広場」で大規模なデモを展開した。やがてその動きは、大統領の弾劾へとつながっていく。
本書は、これまでの韓国社会を規定してきた「進歩」対「保守」といった単純な対立構図を超え、広場に立った多様な市民の姿を丹念に読み解こうとする試みである。市民社会や民主主義、労働、社会福祉を研究する4人の社会学者が、非常戒厳令をきっかけにデモに参加した人々を取材し、その声を基に考察をまとめた。
民主主義を守ろうと立ち上がった人々だけでなく、「アスファルト極右」と呼ばれる右傾化した主張を掲げる市民や2030世代の男性、不安定労働者など、異なる立場の市民を幅広く取り上げ、韓国社会における変化と新たな連帯の可能性を探る。広場と政治は切り離せるものではなく、多様な市民がともに新しい広場・社会・政治を生み出していくとき、民主主義は健全に機能する――本書はそのことを力強く示している。

●目次

序文 内乱の悲劇から民主主義の回復へ
第一章 韓国民主主義の危機と極右ファシズム
第二章 広場が尋ね、青年が答える ― 再びつくる世界、広場の民主主義を記憶せよ
第三章 2030男性フレーミング戦争 彼らにはないペンライト
第四章 溶け出す労働、連帯が困難な青年たち

●日本でのアピールポイント

尹錫悦前大統領による非常戒厳令と弾劾の一連の流れは、日本でも大きな関心を集めた。「韓国の民主主義が崩壊するのではないか」という危機感を呼び起こす一方で、広場に集まった市民の姿は、韓国社会に根づく民主主義の力強さを印象づけた。
ただ日本の報道では、弾劾を求める市民の動きに焦点が当てられることが多かったが、実際には広場に集まった人々は多様だった。弾劾に反対したのは保守層だけでなく、20代・30代の若い男性たちも目立ち、韓国社会の変容が浮き彫りになった。
本書はその背景に、SNSやYouTubeによる過激な言説の拡散、兵役や厳しい労働環境に起因する男性の不満・不安、さらに深刻なジェンダー対立があると指摘する。
その上で広場に集まった市民たちの声を聞き、新たな連帯の形を模索する動きも始まっている。
日本でもフェイクニュースやキャンセルカルチャーなど、SNSを介した憎悪や分断が社会問題となっている。非常戒厳令という前例のない危機を乗り越えた韓国の民主主義の姿は、政治の不安定化が続く日本にとって「民主主義の再構築」を考えるうえで示唆に富む。いわゆる「就職氷河期世代」をはじめ、雇用不安が社会への不満につながっており、分断された社会での連帯のあり方を考えるうえでも、非常戒厳をきっかけに始まった韓国の連帯の形は多くの示唆を与えてくれるだろう。
非常戒厳令からまもなく1年を迎えようとする今、本書は民主主義の再生だけでなく、社会の分断、SNS時代の政治、ジェンダー平等、若者の雇用問題など幅広いテーマを切り口にしており学術書としてだけでなく、現代社会のあり方に関心をもつ一般読者にも強く訴えかける内容となるだろう。

(作成:砂上麻子)

シン・ジヌク
市民社会と民主主義を研究する社会学者
イ・ジェジョン/h5>不安定労働や社会福祉の研究者。複数の社会運動組織代表として活動
ヤン・スンフン/h5>若者の労働市場と地域産業構造を研究
イ・スンユン/h5>労働現場の実態調査に精通した社会福祉学者