●本書の概略
うつ病やアルコール依存症を抱える著者が、友人や知人の家に一晩だけ身を寄せ、その経験を日記のように綴った散文集。
大切な人を亡くした著者は、「抱きしめられたい」から「抱きしめられる人」へと変わるために放浪する。行き先はカウンセリングの場や友人の家、思い出の場所などさまざまで、そのたびに著者を温かく迎えてくれる人々がいた。彼らとのささやかな出来事が淡々と描かれ、著者が生き延びるうえで欠かせなかった空間や人への感謝がじんわりと伝わってくる。
「時々思う。いつから助けてと言えるようになったのだろう。おそらくカムラムみたいな、ただただ温かい人がいると気づいてからだ」
(52頁「善意に応える自信:サムソンドン、カムラムの部屋にて」)
●目次
はじめに
着生植物:来談者の席にて
殻のない卵のように:ゴンヌンドン、モテルにて
自分にしか見えない、隠したい傷跡:ウォルゴクドン、ミンゴンの部屋で
善意に応える自信:サムソンドン、カムラムの部屋で
寄せ書き:近所のベンチに座って
愛されない子:キョンニダンギル、ウンチョンの家の前で
あなたたち、若さを無駄にしてる:ネットカフェで朝を待ちながら
ぼくからも抱きしめたい:ジョンロにて、ハクジュンと
空を愛している人たち:モクドン、アルムの家で
シラカシの生垣を乗り越えたら:ヘバンチョン、本屋に座って書く手紙
数字と型と基準と承認:自宅で、ブックダマスのイェジンと
「大丈夫だよ」という言葉:チェジュソギポにて、ジェウンと
勝たない人生について:チャンウィドン、ヒョックの部屋で
あなたの半分くらい、理解できるよう努力する:ソッケにて、閉鎖病棟にいた人たちと
明け方三時、[着いたよ]:自宅で、パニック発作
わたしたちは、精一杯がんばっています:家路について、タクシーの中
寂しい時は六号線の列車に乗る:六号線の列車にて
心を開かないといけなさそうな人たちがいる:ソクチョにて
朝だよ、呑んではないんだ:夜明かし、パソコンの前で
ひとりでも怖くない夜:孤独と孤立の間、カンヌンにて
推薦文:脱皮(オ・スヨン)
おわりに
●日本でのアピールポイント
うつ病や依存症の闘病記は数多く出版されているが、その多くは病そのものを語るか、克服の方法論に重点が置かれている。これに対し本書は、治療や回復の記録ではなく、人と人とが日常の場面で寄り添い合う時間を描いている。
語り手である著者にとって、人々の存在は近すぎず遠すぎずの距離感を保ちながら支えとなり、その姿は心の病に悩む読者はもちろん、同じ経験をもたない人にとっても静かな共感を呼ぶだろう。
大袈裟な慰めや過度な応援より、同じ空間で一緒にいるだけで十分、それは読者に「自分も誰かを支えることができる」という実感を呼び起こす。
(作成:あさか すんひ)

