●本書の概略
数々の文学賞を受賞し韓国文学を牽引する若手作家、チョン・イェが手がけたSF長編小説。〈チャンビ青少年文学136〉のこの新作は、若者たちが仲間とともに力を合わせ、なんとか生き延びようと悪戦苦闘し未来を模索する。そのために犠牲は避けられないのかを問いかけながら深い愛を知る物語。
蒸し暑い夏だけが繰り返され、極限の自然災害にみまわれる未来世界。地上に生存するのは二つの種族、ミミ族とトゥドゥ族のみ。ミミ族の長、チュホンは古代の言語を解析できるイロクとともに、〈究極の源泉〉と呼ばれる神秘のエネルギーを求めて探し回る。古代の先祖が残した予言によると、闇の花が青く咲きはじめると、一億回目の夏が始まり、古い種族のひとつが滅亡する。その闇の花の開花を見つけたチュホンは、トゥドゥ族に滅ぼされることを心配する。イロクの腹違いの兄、イルロクは敵対するトゥドゥ族に寝がえり、チュホンたちを危険にさらす。〈究極の源泉〉を見つければ、種族の滅亡を阻止できると確信するが、今度はイロクの裏切りで窮地に陥る。仲間を守るために、自分を犠牲にする若者たち。イロクもイルロクも、愛する人を守るために、トゥドゥ族に寝返ったのだ。〈究極の源泉〉を発見し、永遠の命を手にしたと思ったトゥドゥ族であったが、その正体は放射性物質で、口にした者たちは死を迎える。イロクやイルロクの犠牲の元、何とか生き延びたチュホンたちは、先祖の残した巨大な地下空間、バンカーに避難し、惑星の衝突にも耐えられた。チュホンたちミミ族は、衝突によって自転を再開した惑星で、一億回目の夏を終え、初めての秋を迎える。
●目次
古代 先祖の予言
1部 光あれ
2部 チュホンの夏
3部 イロクの夏
4部 イルロクの夏
5部 すると、光が生まれた
夏の終わり
作家の言葉
●日本でのアピールポイント
この文章を書いている2025年夏、日本では最高気温41.8度を記録し、物語の描く未来世界が現実味を増した。探し求めた〈究極の源泉〉の正体が、古代の先祖(現在のわれわれを指す)がどうしても処分できなかった放射性廃棄物だったことも、あとがきで明かされる。作者は社会問題を科学的な面から問いかける。誰かを守るために自らを犠牲にする切ない愛が、読後しみじみと漂ってくる。愛だけにとどまらず、環境問題も示唆するこの作品は、先祖の預言や、古代文字の解読など、楽しみながら読み進められる。また、前作の『キャンディ・レイン』と今作『一億回目の夏』をつなぐ、ノベルゲーム(文章を読み進めることが主体のコンピューターゲーム)『最後の春』も公開されている。
(作成:のざわみさを)

