●本書の概略
マイノリティ政治学を専門とする政治学者チョン・フェオクによる一冊。韓国社会におけるさまざまな差別のかたちをひもときながら、それらが個人の感情や偏見によるものではなく、社会の構造そのものと深く関わっていることを明らかにする。
取り上げられているのは、民族、性別、障害など、異なる背景をもつ6つの集団。それぞれの差別の歴史をたどりながら、韓国国外の類似した事例と比較することで、差別がどのようにして生まれ、繰り返されるのかを丁寧に描き出す。専門的な内容ながら、話題となった映画「あしたの少女(다음 소희)」(2022年)を導入に用いるなど工夫がされており、各集団に関する具体的なエピソードも豊富。背景知識が十分でなくても理解を深めやすく、差別の構造を学ぶ入門として適した一冊となっている。
●目次
プロローグ 差別から恩恵を受ける社会
第1章 ケアから恩恵を受ける
朝鮮族のケアワーカー×韓国人ドイツ派遣看護師
第2章 移住労働者から恩恵を受ける
東南アジアの移住労働者×ハワイの朝鮮人
第3章 虐殺から恩恵を受ける
朝鮮排華事件の中国人×関東大震災の朝鮮人
第4章 浄化から恩恵を受ける
韓国の兄弟福祉院の入所者×ヨーロッパの差別されるジプシーたち
第5章 スティグマから恩恵を受ける
韓国のハンセン病患者×アメリカのHIV感染者
第6章 ミソジニーから恩恵を受ける
韓国の女性たち×中世ヨーロッパの魔女狩り
エピローグ ゆっくり歩いても良い社会
●日本でのアピールポイント
日本においても、在日コリアンや障害者、被差別部落、セクシュアルマイノリティなどをめぐる差別構造は、今なお社会に根を張っている。本書は、それらを理解するための貴重な手がかりを与えてくれる一冊といえる。とくに、差別が国家の制度や近代の形成過程と深く結びついてきたという視点は、日本の歴史、とりわけ明治以降と多くの共通点を持つ。
本書は韓国という他国の視点から差別の構造を描くことで、むしろ私たち自身の社会の姿を照らし出してくれる。安田浩一『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』や上野千鶴子『女ぎらい』などとあわせて読むことで、制度と排除の関係についてより立体的に理解を深めることができるだろう。
(作成:中尾未来)

