差別の国で幸せに暮らす人々―私たちはいかにして被害者から加害者になったのか(차별의 나라에서 행복한 사람들)

原題
차별의 나라에서 행복한 사람들
著者
チョン・フェオク
出版日
2025年5月16日
発行元
ウィズダムハウス
ISBN
9791171714162
ページ数
264ページ
定価
18,000ウォン
分野
人文

●本書の概略

マイノリティ政治学を専門とする政治学者チョン・フェオクによる一冊。韓国社会におけるさまざまな差別のかたちをひもときながら、それらが個人の感情や偏見によるものではなく、社会の構造そのものと深く関わっていることを明らかにする。
取り上げられているのは、民族、性別、障害など、異なる背景をもつ6つの集団。それぞれの差別の歴史をたどりながら、韓国国外の類似した事例と比較することで、差別がどのようにして生まれ、繰り返されるのかを丁寧に描き出す。専門的な内容ながら、話題となった映画「あしたの少女(다음 소희)」(2022年)を導入に用いるなど工夫がされており、各集団に関する具体的なエピソードも豊富。背景知識が十分でなくても理解を深めやすく、差別の構造を学ぶ入門として適した一冊となっている。

●目次

プロローグ 差別から恩恵を受ける社会
第1章 ケアから恩恵を受ける
朝鮮族のケアワーカー×韓国人ドイツ派遣看護師
第2章 移住労働者から恩恵を受ける
東南アジアの移住労働者×ハワイの朝鮮人
第3章 虐殺から恩恵を受ける
朝鮮排華事件の中国人×関東大震災の朝鮮人
第4章 浄化から恩恵を受ける
韓国の兄弟福祉院の入所者×ヨーロッパの差別されるジプシーたち
第5章 スティグマから恩恵を受ける
韓国のハンセン病患者×アメリカのHIV感染者
第6章 ミソジニーから恩恵を受ける
韓国の女性たち×中世ヨーロッパの魔女狩り
エピローグ ゆっくり歩いても良い社会

●日本でのアピールポイント

日本においても、在日コリアンや障害者、被差別部落、セクシュアルマイノリティなどをめぐる差別構造は、今なお社会に根を張っている。本書は、それらを理解するための貴重な手がかりを与えてくれる一冊といえる。とくに、差別が国家の制度や近代の形成過程と深く結びついてきたという視点は、日本の歴史、とりわけ明治以降と多くの共通点を持つ。
本書は韓国という他国の視点から差別の構造を描くことで、むしろ私たち自身の社会の姿を照らし出してくれる。安田浩一『ルポ 差別と貧困の外国人労働者』や上野千鶴子『女ぎらい』などとあわせて読むことで、制度と排除の関係についてより立体的に理解を深めることができるだろう。

(作成:中尾未来)

チョン・フェオク
アイオワ大学大学院にて博士号を取得。現在は明知大学の公共人材学部で「ヘイトと差別の政治学」、「マイノリティ政治論」などの講義を担当。人権、差別、統合についての研究活動をおこなう。『アジア人という理由』『一度歌ってみた:チャンケ(짱깨)からドンナマ(똥남아)まで、近現代韓国人の人種差別と蔑称の歴史』をはじめとする多数の書籍と論文を執筆。ソウル市名誉市長(移民・移住労働分野)(*)、法務部外国人長期保護審査委員会委員、在外同胞庁自主評価委員会委員、経済正義実践市民連合政治改革委員会委員、言論仲裁委員選挙記事審査委員、『韓国日報』コラムニストなどとして活動。その他、大統領直属の国民統合委員会青年政治時代特別委員長、韓国政治学会副会長などを歴任。 (*)名誉市長は、市民の声を代弁する役割を指す。