●本書の概略
高すぎず、低すぎない塀は本来、家と家の敷地を隔てるものであり、「私のもの」と「あの子のもの」を分けるものだった。しかし一人の家に帰り、親を待ちながら暇を持て余す子どもたちにとって、塀は次第にかれらを見守り、一緒に遊んでくれる友達になっていく。
かくれんぼの遊び場になり、のびのびと落書きできるキャンバスになり、5本の指を添えるとピアノの音色が聴こえてくるようだ。そのうち、遠くから子どもを呼ぶ親の声!
路地裏の子どもたちと塀のささやかな日常を描き、読者に懐かしさと安心感を与えてくれる絵本。
●日本でのアピールポイント
学校から帰って来ると、子どもたちは路地裏の塀を遊び相手にしてお母さんの帰りを待つ。韓国だけでなく、日本でもかつてよく見られた光景ではないでしょうか。ゲームが広く普及し、昨今はパンデミックや物騒な事件が増え、まちの都市化が進むことで、こうした遊び場や、外で遊ぶ習慣は減っているかもしれません。
かと言って、この物語がすたれてしまうかというとそうではないのです。作家自身も、塀のないアパートで二人の子どもを育てているそう。自由にあちこち遊びまわれる時代ではなくなったからこそ、周囲の人々が、親しみのある塀のように、少しだけ心を開いて子どもたちを見守り育ててあげてほしいという願いが込められています。
淡白な色合いながらも、じんわりとあたたかみが伝わってきます。どのページにも描かれている猫の姿にも癒されます。
(作成:黄理愛)