●本書の概略
本書は、ノ・フェチャン財団※とハンギョレ新聞が手を組み、2022年5月から毎週連載しているコラム「6411の声」に寄せられたなかから、75人の声を1冊にまとめたもの。「6411」は、ノ・フェチャンがある演説において、韓国社会における労働者の姿を6411番バスの乗客を例に挙げて表現したことから、彼らを象徴する言葉として使われるようになった。
地下鉄も動いていない午前4時。6411番の始発バスに乗り込むのは、主に都心のカンナム(江南)へ出勤するビルの清掃労働者、移民労働者、ケア労働者たち。彼らをはじめとする透明人間のような労働者――物流センタースタッフ、と畜検査員、農夫、結婚移住女性、バイク便ライダー、社会福祉士、タトゥーイスト、ウェブ漫画家など――が、自らの労働現場での経験をA4用紙1枚に書き綴った。見えないところで私たちの社会を支えている労働者の声を通じ、この社会が抱える問題を解決する糸口がつかめたらと願う。
※労働運動家で国会議員の故・ノ・フェチャンの志と夢を受け継ぎ、平等で公正な韓国社会の実現に貢献することを目的として2019年1月24日に創立された
●目次
前書き
1部 隠れた職場で自分を見つける
2部 差別のない世界へ向ける声
3部 「今日も無事で」 ため息と汗の記録
4部 権利に向かって一歩一歩
後書きに代えて――6411番バスをご存じですか。――ノ・フェチャン
●日本でのアピールポイント
私たちの暮らす社会は、さまざまな労働によって支えられている。ビルの清掃、農業、物流など、どれも私たちの生活に欠かせない重要な仕事だ。ビルの清掃員がいるからこそ快適な環境で仕事ができ、農家の人が米や野菜を作ってくれるおかげで、私たちの食生活は守られている。指1本でいつでもどこでも買い物ができるのは、商品を梱包し、仕分け、それを届けてくれる人がいるからだ。しかし、こうした仕事に携わる人々の現状は厳しい。非正規雇用、低賃金、高齢化、後継者不足、さらには危険手当なし、休憩する時間や場所がないなど、さまざまな課題を抱えているだけでなく、充分な待遇が得られていないのが実情だ。
「労働のない世の中は存在しないし、世の中に存在する労働の数だけ新たなストーリーがある」
本書は、その一つひとつの労働にスポットを当て、これまであまり知られていなかった労働現場の実態を垣間見せる。彼ら自身の体験をもとにしたためられた文章は、読む者の心を強くひきつけると同時に、労働の価値、人間の尊厳について改めて考えさせる。
彼らの直面している困難は他人ごとではなく、社会全体で悩み改善すべき問題である。労働者が安心して働ける、その労働に見合った報酬が得られる社会を作るためにはどうするべきか。労働の本質と社会のあり方について、真の意味での「共存」とは何かについて、今一度、深く考えさせられる1冊だ。
(作成:尹朋美)