軽い昼食(가벼운 점심)

原題
가벼운 점심
著者
チャン・ウンジン
出版日
2024年 4月20日
発行元
ハンギョレ出版
ISBN
9791172130404
ページ数
315頁
定価
16,800ウォン
分野
小説

●本書の概略

本書は四季の小説家と呼ばれる、チャン・ウンジン作家の4冊目の短編集。チャン・ウンジンの小説に季節は欠かせないもので、表題作「軽めの昼食」をはじめ6つのストーリーには春・夏・秋・冬の四季が全て登場し、その特徴がさらに際立つものになっている。
「僕のルーマニア語授業」(須見春奈訳、クオン韓国文学ショートショート)は2023年に邦訳版が出版されている。

表題作「軽い昼食」
10年前の春、家族を捨てて出ていった父が祖父の葬式に現れ、誰よりも激しく泣いていた。葬式が終わりアメリカに帰る父と空港で軽い昼食をとる僕。重い話をするには軽い昼食がかえってよかった。一緒に食べながら「なぜ出ていったのか」その一部始終を聞く。春が好きだけど好きじゃないという父は愛する人と一緒になるために、出ていくまでに20年も我慢していたという。そして今、春が好きだから好きと言えるようになった父が見せてくれた一枚の写真には、僕たち家族から父を奪ったアメリカ人が満面の笑みを浮かべていた。
父が時計を見た。ここの春を再び旅立つときがきたのだ。父と僕は出国準備をするため急いで席を立つ。今日は父と初めてすることばかりだった。一緒に桜をみたし、ハンバーガーも食べた、抱擁して握手もした。父に春が来たからだろう。また新たにやって来る春を軽い気持ちで迎えることができるから。父の愛する男、デイビットと一緒に。

●目次

軽い昼食
ピアノ、ピアノ
あくび
古典的な時間
僕のルーマニア語授業
番人
作家の言葉

●日本でのアピールポイント

ノーベル文学賞を受賞したハン・ガンが「よく練られた構成と落ち着いた話の起伏」と語るチャン・ウンジン作家の文章は静かに流れるように始まる。文体が安定しており読みやすい。翻訳の際には流れるような文章をそのまま日本語でも表現したい。
ページをめくるたびにその情景が目の前に広がり、四季を感じることができる。
韓国では主に30代~40代の女性に多く読まれている。
日常のストーリーなので、平凡だと感じることもあるかもしれないが、自分のことのようでもあり、また隣の誰かのことのようでもあり、共感できる要素が多い。
本書では「軽い昼食」以外、猫が登場し人物の感情や行動に影響を与えている。動物も社会の構成員であり我々の側にいる生命体だというチャン・ウンジンは必要に応じてなるべく小説に登場させるつもりだという。猫によって変わる、猫に対する、人物の感情の変化を読み解くのもよいだろう。

(作成:清水綾子)

チャン・ウンジン
2002年全南日報の新春文芸と2004年中央新人文学賞でデビュー。小説集に『キッチン実験室』『空き家をノックする』『あなたの人里離れた所』、長編小説に『アリスのライフスタイル』『誰も手紙を書かない』『彼女の家はどこか』『日付なし』『天気と愛』がある。邦訳に『僕のルーマニア語授業』(須見春奈訳、クオン韓国文学ショートショート、2023年)がある。文学トンネ作家賞、イ・ヒョソク文学賞を受賞している。