●本書の概略
巨額の金を取り巻き、揺さぶられる友情を描いたエンターテイメント小説。
養護施設出身のジフンは施設の院長から性的虐待を受け、その現場を目撃した施設仲間のミョンホにより院長が殺害される。
時が流れ、頭が良く努力家のジフンは証券マンになり故郷に帰る。ミョンホは殺害事件の後、少年院を出た流れで不良グループから暴力団に入る。事件をきっかけに仲が拗れたミョンホとジフンの間を取り繕おうとするテホンのおかげで、三人は再会できる。この時、偶然手に入れたロトで40億ウォンが当たり、三人の取り分を巡った葛藤や啀み合いが繰り広げられる。
しかし、当せん金額の取り分だけでは賄いきれない各々の事情があった。証券マンのジフンは、会社の上司の投資詐欺に巻き込まれ多額の借金があり、ミョンホは組織の部下に横領の罪を着せられ、逃げ場のない状態。そして物語のキーマンとなるテホンは、キッチンカーで生計を立てていて出所不明の借金を抱えたまま突然死んでしまう。その死を解明する過程でジフンとミョンホはある事故に遭い、お互いを疑い続けていた関係が一転する。
詐欺被害者からの復讐、暴力団の乱闘、面倒役の刑事との様々な事件に立ち向かっていくジフンとミョンホは、やがて気づいていく。真の幸運とは友情そのものにあると。
●目次
一部
二部
三部
エピローグ
●日本でのアピールポイント
巨額の当せん金、殺人、暴力団、友情と背信などなど。推理小説のオーソドックスな題材を用いているが、著者の強みである巧みなストーリー展開により次々と読み進めてしまう。特に、当せん金を独占するための謀略や心理戦、過去と現在を行き来して至る所に張られた伏線の回収シーンは、読み応えがある。
物語の展開やキャラクターの構成は、韓国ドラマの脚本を読んでいるかのような感覚に陥る。実際、2020年に発表された長編小説『ハピネスバトル(原題:행복배틀)』はドラマ化され、著者本人が手掛けた台本を元に作られたという。読んでいるうちに映像が浮かんでくる本作品も、読書とともに登場人物の脳内キャスティングを楽しめる一冊だ。
(作成:あさかすんひ)