塩の子ども(소금 아이)

原題
소금 아이
著者
イ・ヒヨン
出版日
2023年6月10日
発行元
トルペゲ
ISBN
9791192836157
ページ数
232ページ
定価
14,000ウォン
分野
YA

●本書の概略

今辛い思いをしている高校生を主人公に、やさしさが人を正しい方向に導くのだと気づかせてくれる物語が、厳しさと美しさを併せ持つ自然豊かな島を舞台に描かれている。

母の再婚で海辺の田舎町にやってきた小学4年生のイスは、幼い頃から親の育児放棄により施設や親戚知人宅を転々としながら、自分の中に閉じこもることで自分自身を守る孤独な少年として育つ。近くに住む義理の祖母のやさしさに触れるが、両親の飲酒や夫婦げんかは続き、両親が揃ってもそれまでの寂しい生活とは変わらなかった。そんなある日、目の前で両親が亡くなるという悲惨な出来事が起こる。幼いイスはその日の記憶が全くない。その場にいた祖母が警察に連行されるが、しばらくして施設に預けられていたイスを迎えに来る。血のつながらない祖母とイスは小さな島に移り住む。17歳になったイスは船で陸地の高校に通っているが、クラスメートのいじめに遭いながらも、少年院帰りの転校生セアと親交を深める。セアもまた、両親の愛に飢え大人の事情で傷ついた孤独な少年だった。この頃からイスは両親が亡くなった日のことを考えるたびにパニックに陥る。祖母が口を閉ざして秘密にしていた事件当日のことが、認知症になった祖母の口から語られることになる。血のつながらない祖母や息子同然にかわいがってくれる近所のおばさん、初めての友人など、イスに寄り添う人たちのおかげで、イスは不幸な出来事の真実を知っても、きちんと向き合える少年に成長していた。

●目次

プロローグ
1.海
2.記憶
3.砂糖
4.うわさ
5.心
6.メモ
7.病院
8.セア
9.イス
10.塩
エピローグ

作家の言葉
推薦文

●日本でのアピールポイント

『アーモンド』(ソン・ウォンピョン著/矢島暁子訳/祥伝社/2019年)が2020年に本屋大賞翻訳小説部門第1位になり話題となったが、イ・ヒヨン作家は『ペイント』(小山内園子訳/イースト・プレス/2021年)で、『アーモンド』に続くチャンビ青少年文学賞を受賞している。この賞は青少年文学とうたわれているが、実際には多くの大人たちの熱い支持を得ている。
親の育児放棄や悲惨な事件に見舞われながらも、周囲の人たちの愛情で正しい方向に進み始める少年たち。辛い状況にあっても人のやさしさで正しさを見失わない少年たちを見ていると、そばにいる大人が無関心ではいけないと強く思う。「これ以上傷つかないで。もう全部終わったの。絶対にあなたのせいじゃないから」というイ・ヒヨン作家の言葉が胸を打つ。
これから大人になる子どもたちはもちろん、かつて十代だった大人や親になった人たちを含む多様な世代に読んでほしい一冊だ。

(作成:のざわみさを)

イ・ヒヨン
2013年短編小説「人が暮らしています」で第1回金承鈺文学賞新人賞大賞を受賞してデビュー。2018年長編小説『ペイント』(小山内園子訳/イースト・プレス/2021年)で第12回チャンビ青少年文学賞を受賞し、同年、長編小説『きみは誰だ』で第1回ブリットGロマンススリラー公募展大賞を受賞した。他に長編小説『普通のノウル』(山岸由佳訳/評論社/2022年)、『ナナ』、『チャレンジ・ブルー』、『テスター』、『フェイス』などがあり、毎年着実に新作を発表し続けている。