●本書の概略
「私」を創りなす世界、「私」が創る世界を紹介するエッセイシリーズ「とにもかくにも」の28番目の作品、アメリカドラマ編。著者は韓国内で複数の文学賞受賞経験もあり、日本でも2023年長編小説『小さな町(Woman’s Best)』が橋本智保訳で2023年書肆侃侃房から翻訳出版されているソン・ボミ。本作が彼女自身初めてのエッセイ作品で、彼女が昔から愛して止まないアメリカドラマに関する話を著している。
ドラマで描かれる各登場人物の人間関係や人生は作られた幻想の世界の話ではなく、どこか欠点がある人間的且つ現実的なもので、つい自分の姿と重ね合わせてしまう、そんな部分に筆者はアメリカドラマの魅力を感じたという。
本書ではThe OfficeやBreaking Badなどのアメリカドラマ13作品が登場する。単なるドラマの内容紹介ではなく、そのドラマを見始めたきっかけや、登場人物に関する話が綴られている。
●目次
・アメリカドラマと私
・パイがある(Gilmore Girl’s)
・ベッドから出てくるのが早い人(Will & Grace)
・誰かを愛するようになるということ(ジ・オフィス)
・ダメなことはない(コミ・カレ!!)
・恐ろしい人生(となりのサインフェルド)
・ひたすら憎めない人(Veep/ヴィ―プ)
・優雅な恐怖(マッドメン)
・世界の姿(LOST)
・繰り返される悪夢の中で(TRUE DETECTIVE/トゥルー・ディテクティブ)
・幸せになるための苦痛(Dr.HOUSE / ドクター・ハウス)
・誤った選択(オザークへようこそ、ブレイキング・バッド)
・愛する心(ツイン・ピークス)
・一つの傷と一つの教訓(BEEF/ビーフ)
・男性たち
・女性たち
・伝えきれなかった話
●日本でのアピールポイント
本書の一番のアピールポイントは、アメリカドラマが好きな人はもちろん、あまり見たことが無いという人でも楽しめるという点である。ドラマのあらすじは程々に、そこに登場する人物に焦点が置かれており、いわゆるマニアックな話が述べられているわけでもない。頭の中で想像を巡らせながら読み進めることができる。またドラマの紹介というと、そのドラマのストーリーについて語られることが多いなか、登場人物にフォーカスをおいて語られているのも新鮮で面白さを感じ、私たちにドラマを観る際の新たな視点を与えてくれる。さらに、本書で紹介されているドラマの登場人物はみな、完璧ではなくどこか人間味を感じる人物であり、身近な話として捉えられるため、読み進めるうちに実際にそのドラマを見てみたいという気持ちにもなる。
近年の動画配信サービスの普及もあり、日本におけるアメリカドラマの視聴も一昔前と比べて身近な存在となった。本書で紹介されているドラマの中には日本では配信されていない作品もあり少々残念ではあるが、必ずしも作品を観なくとも本書を読むだけでも十分に楽しめる内容である。
(作成:上坂さつき)