●本書の概略
2024年第4回ティーン ストーリーキング受賞作である。ティーン ストーリーキングとは韓国の中高校生100名が選んだ文学賞であり、本作は受賞作中で最初のロマンス小説である。高校生同士の愛と友情、思い通りにならない人間関係などを叙情的、感覚的な文章で丁寧に描写されている。
主人公である高1のヨンは、親友ダインから謎の「絶交メッセージ」を受け取った。思いもしないメッセージに当惑しながら、奉仕活動先のナム孤児院でヨンはユンソンに出会った。ヨンとユンソンはたちまち意気投合し、運命的な出会いとなった。そして教室で孤独だった女子の同級生イェリもナムナム孤児院に導き、三人は彼らだけの友情を培う。でもヨンはユン・ソンとイェリの特別な仲に気づいてしまう。
複雑な感情がめぐる中で、ヨンは「絶交メッセージ」に隠された衝撃的な事実を知ることになる。ヨンの父には母とは別の恋人があり、それはかつて「絶交メッセージ」を送ってきたダインの実母だったのだ。ヨンの両親は離婚を決意していた、
ヨンの両親の離婚により、予想を超えた展開が待っていた。でもみんなはそれぞれの道をしっかり進むことで、明日は確実に来るのであった。
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人生は何も楽しいこと、うれしいことばかりではない。本小説の主人公のように、恋愛も家族関係もさほどうまくいっていないことの方が多いかも知れない。いろいろ困ったこと、悩むこともあるけれど、人にはそれぞれ輝いて生きていける道がある。自分は輝いていないと思っても、それなりに自分らしく生きる道があること、何かを完成させることだけではなく。希望を持って明るく生きることの素晴らしさを軽快な文章で語っている。
●目次
1 ナム孤児院にて
2 大人たちが国語の聞き取り試験を受けたら
3 全員が出ていったみたいに
4 明るい憂鬱
5 私から幸せになろう
6 推測とは違うこと
7 家で道に迷ったら
8 重い埃
9 それは何だったの
●日本でのアピールポイント
現在日本でも経済的問題や人間関係、自分の置かれた状況に悩む人は多い。そして学校でも社会でも成績主義、減点主義評価が横行している。その中で、自分の能力や経験の不足を苦にして、未来像を描けないでいる人も多い。
でも本作は、いろいろ不満足な状況や、自分に足りない部分があっても、自分の生き方は自分で決められる、どんな状況でも自分の進む道があることを示しているように思える。本作は韓国の青少年向けの作品ではあるが、進路や周辺の状況に悩める日本の若者だけでなく、日々の仕事や人間に疲れた大人たちにも十分訴えかけるものがあると思われる。困難な商況があっても、自分なりに輝いて生きていける。日本でも、老若男女、各層の人々に味読してほしい作品と思われる。
(作成:横田 明)