●本書の概略
2021年第27回黄金トッケビ賞受賞作。受賞の際「これまでになかった斬新な表現法を用いた童話」と審査員たちから評価されたように、単語と詩から構成されている。
29個の単語をもとに、それにまつわる主人公の経験や空想を描きながら物語は展開していく。主人公が愛犬を想いながら綴った詩も随所に登場する。
小学生の「わたし」はある日、学校から帰ると荷物をまとめるよう父に言い渡される。リュックひとつを手に、父に連れられて到着したところは考試院(コシウォン)※だった。部屋にはシングルベッドが一台。隣に布団を敷けば足の踏み場もないほど狭い部屋。家賃を節約するため、その部屋で息を潜めて暮らすことを余儀なくされる。そんな彼女の心の支えは日々出会う「単語」の世界を想像し、旅することだった。単語の世界はいつも輝いていてあたたかく、そこではみんながいつも笑っている。
つらい現実にくじけそうになるとき、「わたし」は今日も単語の世界を旅する。
※考試院:ベッドや机、共同のシャワー室などといった住むのに必要最低限の設備を備えるワンルームタイプの住居。もともとは受験生などが勉強をするための施設だったが、現在は高い家賃を払えない学生や地方出身者、日雇い労働者が生活の拠点を構える簡易宿泊所となっている。
●目次
眠り/友だち/大きさ/詩/世界/勘/夜/道/家/お金/勉強/でたらめ/かくれんぼ/木/宇宙人/けんか/希望/わたしたち/なぞなぞ/ぶうぶう/壁/秘密/魔法/暗闇/飛行/神秘/はしご/想像/花
●日本でのアピールポイント
祖母を亡くし愛犬とも離れ離れになり、簡易宿泊所で息を潜めて暮らす主人公。重くなりがちな題材を用いているが、小学生の視点からその思いを「単語」と「詩」に昇華することで重さを感じさせない。また、やさしいタッチの絵がうつくしい単語の世界と主人公の芯の強さを見事に表現している。
一章は4~5ページと読みやすいのも魅力だ。随所にちりばめられた詩はリズムがよく、つい声に出して読みたくなる。
単語の意味を噛み締めたり、ことばあそびを楽しんだり、絵を味わったり…。読む度に新しい楽しみ方ができて、読後は不思議とあたたかな気持ちになり、勇気がもらえる一冊だ。最後に、本書に登場する一節を紹介する。
「わたしは世界を照らすきらびやかな単語の光を想像する。夢中で!
なんたってわたしは、単語の女王だから。(p.156「想像」より)」
子どもはもちろん、大人も一緒に、単語の世界を旅してみてほしい。
(作成:中川里沙)